女好き優男の寝言




「……――ーナ…」
「………」



少し掠れた甘い声色で、何事かをマッドが呟く。正確には聞き取れなかったが、おそらくは女の名前であろうか。好いている女くらいはいるだろう。


「…うー…」
「……マッド…」


何故か私の胸筋付近を触る。どことなく不満そうだ。女の柔らかな胸ではなくて悪かったな。つい自嘲気味に笑ってしまった。
それでもシャツを掴み満足したのか、更にもそもそと口を開いた。先程の名前を繰り返すのだろうか。どんな人物かは知りたい。だがあまり明確な名前は聞きたくない様な気もする。そんな逡巡を余所に、寝言にしては割合はっきりとした声でマッドは呟いた。


「…メアリー、ヘレン…ベス、…サラ…」



うへへへ、となんとも幸せそうな声を出し、だらしなく緩んだ表情を引っ提げたマッドを見て、がっくりと肩を落としてしまった。何だか、真剣に悩んだ自分が馬鹿らしいと思う。

だが。この様子では、本命の女性はいないのだろう。その事に深く安堵したというのもまた事実。気を取り直して顔を覗けば、またひくりと口が動く。


「……ベル、……キャシー…」


まだまだ続く女の名前に、嫉妬だの何だのではなくどうにも呆れた気分になってくる。マッドお前、まさかその上げ連ねた女、全員と関係を持ったなどとは言わないよな。それは流石に遊びすぎではないだろうか。違う事が心配になってきた。


「カトリー、ヌ、…リリー…、………、…キ……」




ああもう。
男の物らしき名前が、一切出てこなかっただけいい。そういう事にしておこう。無理矢理にでも、そう前向きに考えんとやってられん。







最後の。







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