綺麗な物の話をしよう




綺麗な物。


ポツリと落とされた単語に、サンダウンは首を傾げる。それを無視し、酔った賞金稼ぎは言葉を続けた。
綺麗な物の、話をしよう。


唐突な話題の転換にやはりサンダウンは首を傾げたが、元よりこの賞金稼ぎが一人で会話を広げているのだし、不満を訴える理由も特にない。
サンダウンは、ここまで共に呑み合う中で、彼が何を話そうと相槌程度しかしていないのだから。


ただ少し、話題に意外性が合っただけだ。マッドが夢物語の様な浪漫を語る事に。
何より、この広がる荒れた野には似合わぬ綺麗な物とは。すぐには思い浮かばない。何かあるだろうか。




「あるさ。そりゃもう、沢山」


笑いながら、サンダウンの些細な呟きを拾い上げたマッドはそのまま話を広げる。


「まずはそうだな、」


マッドの語る綺麗な物は、蠱惑的な女であったり、尾を翻し駆ける馬であったり、瞬間的な荒野の景色であったり、本当にそれは綺麗かと言いたくなる物であったりと、それはもう種類に富んでいた。


身振り手振りを交えて語られるそれを肴に、サンダウンは酒を煽る。耳をくすぐる朗々とした声と、喉を焦がすアルコールが心地いい。


彼が見る世界は面白い。サンダウンは思う。忘れかけていた何かが垣間見え、気分が弾む様だ。



話に耳を傾けて、どれだけの時間が経っただろうか。
酒の残りももう少ない。随分と飲んでいた様だ。ふとサンダウンが気づけば、淀みなく話を続けていたマッドの口数が減り始めていた。

そっとマッドを伺えば目が合う。酒をちびちびと飲みながら、サンダウンを真っ直ぐに見つめていた。
酔いの回った黒い目が、ゆるゆると瞬く。



「あんたの目玉もさ、綺麗な色してるよな」



そう呟くと同時にのろのろとサンダウンの方へと手が伸びてくる。簡単に避けられる筈のその手は、避けられる事もなく弾かれる事もなくそのまま顔へと向かう。
ひたりと目尻に当てられた指先は発熱しているかの様に熱い。


「何だろうなぁ、これ。空の色…いや、深い水底覗いた時の色とか?…ああ駄目だ、何かに例えるなんて出来ねぇや」


何か、綺麗だよな。俺、これ欲しいなぁ。
舌ったらずに囁く声は子供の強張りの様だった。


だからだろうか。
それとも、単純に酔っていたからだろうか。
つい、好きにしたらいい、とサンダウンは言いたくなる。事実、彼の口からはその言葉がこぼれ落ちていた。


それを聞いた賞金稼ぎは、緩慢な動きでサンダウンの頭を引き寄せ、瞼に一つ、口付けを落とした。



「ははっキッドぉそんな事言うと食っちまうぞー」


けらけらとおどけた調子で喋るマッドの目は、酔いは浮かんだままだが確かに本気だった。







綺麗な物の話







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