茶色の犬の夢




茶色の犬の夢を見た。

気が付いたら、茶色い毛の犬が近くにいた。
その犬は、全体的に薄汚れていて毛もぼろぼろだ。汚れているから茶色に見えるだけで、本当は茶色の毛ではなく金色なのかも知れない。
汚い犬。印象はそれだけだ。けれど、真っ直ぐに空を見つめる、その目だけは綺麗だと思った。

犬は、しばらく微動だにせず空を見ていたと思ったら、スッと地面に視線を落として口から溜め息を吐いた。


ああこれは夢だと思った。
こんな人間臭い犬はいないだろう。

その諦めた目玉の色が何かに似ている、とふと思った。だが肝心のその何かが分からない。頭がうまく働かない。夢なんてそんなモンだ。


ああしかしこの犬、妙に腹立たしく感じる。
こんなに近くにいるというのに、俺をちらりとも見ない所為だろうか。


「おい」

試しに呼んでも動かない。見向きもしない。


「おい!」


苛々しながらもう一度呼べば、犬は面倒そうに視線をよこす。綺麗な目玉に俺が映った。少しだけ、気分が高揚した。
だが、犬はすぐに俺を見るのを止めて関心をなくした様にどこかへ歩き出す。


「…このッ…待ちやがれ!」


別に放っておけばいい、とは思った。
だがどうにも、分かりやすく俺を無視したあの犬に苛立ちが止まらない。気付いたら、去っていく後ろ姿を必死に追い掛けていた。
更にムカつく事に、走って追い掛けているのにあの犬にはちっとも追いつけやしない。犬はゆったりとした歩幅で歩いているにも拘らず、だ。



感覚としては、それこそ何時間も走り続けた。

まだ追い付かない。それでも微妙に距離が縮まった様な気がする。
そこで、あまりのしつこさに耐えかねたのか、犬が一瞬後ろを見た。スピードが遅くなった犬に、俺は思い切り手を伸ばして、ほとんど揺れない垂れ下がった尻尾を引っ掴んでやった。流石に痛かったのか、犬が小さくひゃいんと鳴いた。
ざまぁみろ。


尻尾の痛みで歩くのを止めた犬を無理矢理抱き込む。ああ、やっと捕まえた。
嫌そうに身動ぎする犬をそのままわしゃわしゃと撫でる。毛が固いわ小汚いわで、撫で心地は最高に悪い。でも何故だか手放す気には到底なれない。
この犬の目玉に、俺が映り込んでいるって事実も中々心地いい。


ひとしきり撫で回した辺りで、諦めたのか犬が割合されるがままになってきた。面白い。思わず毛に顔を埋めてみれば、硝煙と砂、土の匂いが、………硝煙?


犬からするには、何かがおかしい匂いに顔を上げれば、そこにいたのは、


「…キッ……」






そこで目が覚めた。
…俺は、あれか……変態か何かか…。









夢は願望の表れという説があります








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