言葉足らず




「ちくしょう…!」


目の前の賞金稼ぎは、ぎりりと聞こえてきそうな程に歯を食い縛り、私を睨み付けてきた。


足元には彼の、マッドの愛銃。
私が撃ち落とした物。
マッドは手早くそれを拾い上げ、乱雑にホルスターに捩じ込む。


「…クソッ…何でだ!何で毎回毎回、あんたは手ぇ抜いてんだッ!!俺を馬鹿にしてんのか!ぁあ!?」
「………」


そんな意図はなかった。
ただ、ここで死ぬには勿体ない男だと思ってしまい、止めを刺す気にならないだけで。


「何で俺を殺らねぇ!殺さなくても大した事になんねぇ…俺には殺す価値すらねぇって言いたいのかよッ!」


日頃溜まっていた怒りが噴き出した様な、そんな剣幕で怒鳴るマッドに眉を潜める。

今まで彼が、ここまで怒りを露にする事はなかった。その為か、柄にもなく焦ってしまう。
何を伝えればいいのか分からずにいる自分が不甲斐ない。それが、更にマッドの火に油を注いでいるのに。


「…黙ってんじゃねぇよ!何とか言いやがれキッド!」
「………………」



「………チッ…ダンマリ決め込みやがって…俺相手じゃ、喋んのも面倒ってか…?」
「……………」



先程までの勢いを微かに潜めたマッドの声に、諦めた様な気配を感じた。
怒りが落ち着いて来たのかと一瞬期待して、窺う様に覗いた目にその淡い期待は霧散する。



その瞳の中には、憎しみすら浮かんでいた。こんな目をする男ではなかったのに。




マッドという男は、賞金稼ぎとしては少し異質だった。

わざわざ単身で賞金首に挑みかかる、通さずとも良い筋を通す、何回銃を撃ち落としても懲りる事なく現れる。本当に異質であった。
そして、金にもならない頼み事を何だかんだと引き受ける姿も見ているし、女子供に対しては情もある。

そんな彼の気性は実に好ましいと思っていた。
彼自身の事も。だが、


「あんた、なんかッ……あんたなんか…!!」


だが、私は彼に随分と嫌われてしまっていた様だ。


賞金稼ぎが、いつまでも捕まえられぬ賞金首を嫌う。憎む。当然だ。
しかし、分かっていた事だというのに胸がやけに痛む。



「……そうか…」
「…ぁ?………キッド?」


そうか、そんなに嫌われていたか。

ならばせめて、少しでも彼の喜ぶ事をしよう。軽く息を吸い込み、細く不本意な言葉を繋げた。


「…私もお前が嫌いだ」


言った瞬間、マッドは大きく目を見開いた。わなわなと小刻みに震え、そして徐々に黒い目が濡れ、……濡れて?……何…?

何故、泣く。
嫌いな人間に好かれたくはないだろうと自分なりに考えた結果なのだが。



「…キ、キッドの……キッドのあほぉぉぉッ!!」




半泣きの状態で馬に乗り、何とも子供染みた捨て台詞を吐いて駆けていくマッド。


そんなん言われなくても!!最初ッから知ってるよ馬鹿ぁぁぁぁッ……と荒野に響き渡らせながら小さくなっていく背中。
私はそれを、ただ茫然と見送るしかなかった。




…何が、一体何が悪かったというんだ。








強いていうなら、相性。







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