あまりにもひどい話




「……何で勃たねぇんだ…」


衝撃的な事実を、目の前の賞金稼ぎがぽつりと発言した。
周りの喧騒に飲み込まれず耳に届いてしまったソレに、酒場の主は危うく酒瓶を落とすところだった。努めて冷静に持ち直し、この賞金稼ぎにとっては不名誉であろう独り言は聞き流す事にした。
酒の席で口を滑らす事はよくある。酒場の人間は、総じて妙な秘密を知りやすい。ここは安易に触れずにいる方が面倒事に巻き込まれないだろう。


ああしかし、まだ若いのになんて気の毒な…。
そっと並べた酒瓶を眺めながら、マスターは同じ男として涙が出そうになった。その年で勃たないなんて酷い話だ。


「シゴいても勃たねぇ、咥えても勃たねぇ…」


続けないで欲しい。
こちらの精神的にも酔いが醒めた後の彼を考えても、続けないで欲しい。


「一体、どうすりゃいいんだよ…!」


聞かないで欲しい。
意見を求められても何も言えないので聞かないで欲しい。


「何が悪いんだ、俺の一体何が、………マスター!!」


呼ばれてしまった。
無駄に並べ直していた酒瓶から無理矢理目を離し、酒を煽り続ける賞金稼ぎの方を向く。そんな、男として死活問題であり、なおかつ繊細な質問に何と答えれば正解なのかなどさっぱりである。


「い、いやぁ…その、…精神的なものですかねぇ…はは…」
「あァ…?」


腐っても賞金稼ぎ。
剣呑な光をに宿した目で射抜かれ、焦り始める。
これは、まずい。何やら踏んではいけない物を踏んだ様だ。
話をどうにかして誤魔化したい…!



「ああああ…そ、そうだ!確か、ここの裏通りで、その手の薬が出回っているとか……」
「あ?薬?……薬、か」


よし、興味を持った!


「あくまで噂なので、詳しくは知りませんが…。少し探せば、情報は簡単に手に入ると思いますよ…」
「へぇ……。薬、ね。考えた事なかったな…、……試してみっか…!」


少し上げられた口元から、幾分か機嫌の良さそうな声が出てくる。
ああ良かった。

正直な話、それで解決するのかは分からないが、彼が納得したならもうそれでいい。
意気揚々と立ち上がり、幾分多めに金を置いた賞金稼ぎに生温かい目を向ける。無責任だが、効くといい…、としか思えない。
もしも、全く効果がなくとも、責めるならこちらではなく薬の売人辺りを責めて欲しい。



「よし!待ってろよキッド!」


これでも無理とか抜かしやがったら、もうなりふり構ってられねぇ!俺が突っ込む、もう俺が突っ込むぜ!あんのインポ野郎!!

と、言いながら彼が走り去った後には、ざわついていた酒場に異様な沈黙が落ちるという状況が残された。





…え?
…………えぇ…?














勃たないの ×マッドドッグ○サンダウン
サンダウン ×インポ○賢者








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