パターン3雑貨屋の息子 |
カラン。 扉に適当な形で付いた少し錆びたベルが、店の中に客が来た事を伝える。カウンターで、暇そうに地図を眺めていた少年が顔を上げた。 「おう、いらっしゃい」 「お?ガキ一人で店番かよ」 親父なら今酒場まで配達しに行ってるぜ、と少年が言えば、来客である男は笑いながら軽口を叩く。 「ほー…今なら売りモン盗り放題だな」 「…保安官サンにあっさり捕まって、しっかりガッツリ縛り首ー…」 「不吉な事言うんじゃねー」 「そんでもって、酒場のキャシーが泣くんだぜ。あぁ愛しのジョルジオ、あたしを置いてどうして逝ってしまったのーってなッ」 「何で知ってんだよ!」 ぎゃあぎゃあと喚く男は、それでも目的であったらしいコーヒー豆を買っていく。会計を終えてもまだ何かぶつぶつと言っている男に、キャシーにこれでもプレゼントしてみたらどうだ?と、言いながら女受けしそうな華やかな小物入れを見せる。親父が仕入れたばっかのモンだ。文句を言いながらも男はにやけて買って帰った。まいどあり。 カラン。 「安くはならんか」 「なんねえ」 毎回値切り交渉をしてくるじいさんと、いつも通りの応酬をしながら商品を包む。毎度の事だから安くはしない。 「飴をやるぞ…安くはならんか」 「なんねえ」 「小僧も頭が固い」 「おらおら包み終わったぜじいさん、いいから金出せ」 「冷たい、小僧が冷たい」 「じいさんあんまサービスすっと、すぐ調子にのるからな」 「……聞こえん。聞こえんな。最近、耳が遠くなったような…」 商品を受け取ったじいさんは飄々とした調子で帰っていく。あのじいさんへのサービスは五回に一回くらいで丁度いい。 カラン。 「…え、何だよお前ー今日店番かよー」 「見りゃ分かんだろ、帰れ帰れ。もしくは何か買ってけ」 「ちっ…残念だなケイト」 「…つまんないね…」 邪険にされた少年の後ろから、小さな女の子の声が聞こえた。途端に、右手で追い払う様な仕草をしていた少年は黒い目を丸くする。 「ケイト!いたのか!フレディお前は邪魔だどけ。ケイト…本当に悪いな。この埋め合わせは次に必ず…」 「…てめ、女なら年は関係ないのか」 「いくつだろうと女にゃあ優しく、だ」 にやにや笑いながら言えば、言ってろ!妹にはまだ早いんだよ!と、強めの声で少年は叫んで店を出ていく。じゃあまたこんどね、と小さな声を残し少女も後に続いて出て行った。 カラン。 そして、少し静かになった店内。外から聞こえる物音をぼんやりと聞きながら、少年は意味もなく店の中を見渡した。 親父の親父の、そのまた親父の代から続く雑貨屋。客の多くも大体が顔見知り。 俺もここを継いで、働いて、いつか可愛い嫁さんでももらって、子供を育てて、この店を継がせていったりするんだろうか。 想像出来ねえな。 カラン。 「…いらっしゃい」 珍しく、知らない顔が扉を開けた。 客の大半は顔見知りだが、勿論知らない顔がやってくる事もある。時々ふらりと立ち寄る流れ者達だ。日を随分と置いた後にまた来る奴もいれば、もう二度と来ない奴もいる。 タイプもそれぞれだ。血気盛んで暴れる様な奴も、枯れ果てたみてえに細い奴も、体を引きずりながら入ってくる奴だっていた。 だが、どいつもこいつもぎらついた目をしてる。やけにぎらぎらと、良くねえ事もいい事もごたまぜにして光る目の色。牧歌的なこの街には、どうにも合わない雰囲気。 店内を覗いていた男は、無言で日持ちする食物やら酒やら葉巻やらを細々と買って、足早に外へと出ていった。またどうぞ、と少年が男へ言葉をかける。 カラン。 錆びたベルが返答代わりに小さく鳴った。 何とはなしに扉を見つめていた少年は、そっとカウンターに置きっぱなしにしていた古びた地図に目を落とす。 格好を崩して、片肘をついて、どうにも暇そうに。 それでも、地図を見る少年の黒い目はどうしたって輝いて見える。 ぎらぎら輝く目玉 |