パターン1捨て子




ガラガラと荷車を引く男。少しこけたその顔に浮かぶ表情は暗い。男の引いているその荷車の中には、薄い毛布にくるまる息子。
崩れかけた路地をすぎ、人気のない場所をひたすら進む。ふと、とある場所で男は立ち止まった。躊躇いがちにそうっと息子を荷台から降ろし、慎重に、起こさないように、路地裏へと横たえた。


毛布を抱え込んだ息子の、あどけない寝顔を見る。男は顔を歪ませてそれでも振り切る様に前を向いた。そして二度と振り返らない。
カタカタと先程よりも軽くなった荷車を引いて、男は何かから逃げる様に急いで家へと帰る。息子が足りない。妻がいる。そんな家に。




荷車の音と男の足音が完全に遠退いた後。
痛い程の静寂の中寝ていた筈の少年はばちりと目を開けて起き上がる。肩を回せば、こきこきと嫌な音を立てる少年の体。縮こまって寝たふりしてんのは結構キツい。少年は思った。



流石に捨てられると分かっていて、ぐーすか寝てもいられない。知らない土地だ。眠りこけている内に何が起こるか分かったモンじゃねえ。

…別に、捨てる話を立ち聞きした時点で勝手に出ていっても良かったとは思う。そうすればいきなり深夜の見知らぬ街とかいうこの状況は回避出来た。

しかし何だかんだで親には情もあったし、この年まで育て上げられた恩もある。もしかしたら土壇場になって止めるかも、という淡い期待もなかった訳じゃない。が、こうして全力で捨てられた事で全部チャラって事でいいだろう。いいよな。

まあ、売り飛ばされなかっただけマシってモンだ。


それにとりあえず出来るだけの準備はしておいたんだ。
腹に巻いた包帯をほどき、一緒に巻き付けておいた小振りのナイフを出して腰に下げる。抱え込んでいた毛布から靴を取り出した。靴に仕込んだ金を出して、緩めた包帯と共に巻きこむ様にしてしまい直す。ほんの少しだけ小銭をポケットへ突っ込んで、勢い良く立ち上がった。

盗みは良くねえ。
だが世の中、先立つモンはやっぱ金だ。ただのガキが一人で、丸腰の無一文でフラフラしてたらあっという間に野垂れ死にしちまう。

元親父に、元お袋。
ナイフと金とこいつは、息子へ餞別としてくれてやったと思って諦めてくれ。


ナイフと金以外にかっぱらったのは銃と弾薬。
手に持ってみれば、金属の重さと冷たさが伝わる。ひやりとした感触。少し手に余るこいつは、今から俺の命の種だ。

俺は成り上がるぜ。
これと、自分の腕だけで成り上がってみせるぜ!
轟け俺の名声!




深夜。暗がり。見知らぬ街の端。
ひとしきり虚勢を張った少年は、その周囲を観察しとりあえずの寝床を探す。






俺の未来は輝かしいと俺が決めた!







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