四回目 オルステッド×アキラ




「…ぅ、ぅう、!?…ぁああああッ!?」


対峙していた少年が、金色に染め上げた瞳を私に向け、口を開こうとした瞬間、悲痛な叫び声を上げ膝をついた。


「あ、ぁああッ…!?」


少年の能力は微細ながらに知っている。確か、思念の力を操り、他人の心をも覗けるらしい力。
ああつまりは。今この少年は、私の心を覗こうとした訳か。


「……断りもなく、勝手に私の思念を読んだお前が悪い」



一体何を見たのやら。
オルステッドと呼ばれた頃の私の半生か。それとも、この身の内を暴れる歪んだ感情か。


憎い憎い憎い、悲しい、許さない、悲しい、憎い、…憎い



くつりと嘲笑う様に顔が歪んだ。
魔王の心を読み込もうなどと、馬鹿な真似をする物だ。



焦点の定まらない怯えた瞳。そこからばたばたと溢れる涙。ガクガクと震えるまだ大人に成りきれぬ体躯。
閉じられないのか、開いたままの口から紡がれる言葉は何の意味も成していない。ただただ、無様に垂れ流されているだけだ。


「ひ、あぁあ、…ぅあああ…!」
「……馬鹿な子供。私の心を読んで、魔王の弱味でも握りたかったのか?…それとも、…説得でもしたかったのか…?」


どちらにしても、愚かな行為だ。
人の心には、許容出来る範囲があるだろうに。


「…うあ、ぁああっ………ぁ……ひ、でぇ…」


対峙した時は真っ直ぐだった瞳を、ぐずりと歪ませて泣く少年。その光景は、いっそ、憐れさすら感じさせる。


「ひでぇ、よぉ……痛、い、…いてぇ…」


少年は、掻き抱く様に自分を抱き締めて泣き続ける。酷いと言いながら。痛いと言いながら。



私の心を見て。




「…少年。…お前には関係ない事だ」


早く、忘れてしまえ。
思いの外、掠れた声が出た。

ふと気づけば、自分でも意図しない内に少年に近付いていた。
もう少しで、少年に触れられるほどに。



「ひぅ…ぅっ…」


怯えも恐怖も悲しみも憎しみも、全て混ぜ合わせた眼が私を見る。
その負の感情を映す眼には、対峙する直前まで強く放っていた力は無くなっていた。けれど、それでも澄んでいた。少年はその眼に、陰っていた意志を薄く取り戻す。


いてぇ、つれぇよお…、…つら、かったよなぁッ…


泣き叫びながら、溢れ続ける涙も収まらぬ震えもそのままに、此方に両腕を伸ばす。伸ばしきった所で弱く崩れ落ちた、少年のその頼りない身体を、私は思わず抱き止めた。


「う、うぁ…うえぇぇっ…」


すがり付く様に強く抱きついてきたのは、心が痛いと泣いた少年か、遠い日の私か。







心からの理解者







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