一回目 サンダウン×オルステッド




どうしてですか

魔王と呼ばれた青年は言う。
とても魔王には見えぬ、悲しげな表情で少しずつ言葉を繋げる。



どうしてですか。
貴方は裏切られたでしょう。貴方は、自分が守った人間に裏切られたでしょう。
どうしてですか。
どうして貴方は、それでも優しげな顔が出来るんですか。彼らを憎まなかったのですか、貴方は悲しまなかったのですか。

どうしてですか。



聞かれて、遠い日の出来事を思い出す。
保安官時代。街を、人を守った。彼らから寄せられる期待と信頼。
崩れた瞬間は呆気ない。私の銃の腕が良いなどという噂に、どこからともなく現れる無法者。不安と恐怖の目を私に向ける街の住人達。
ひどく、懐かしい。



ああ、何故だろうな。
私はそれでいいと思ったんだ。
彼らが、私が消える事でまた笑えるというのなら、私はそれでも構わなかった。



自分の首に賞金をかけ、無法者ごと街から離れる。今考えて見れば、もっと違った方法があったかも知れない。それでも私はあの時、自分で選んだのだから。



…違いますね。

青年は、軽く首を振り呟いた。


嘘ですよ、そんなのは。
憎まない筈がないじゃないですか。
…もし仮に、……憎まなかったとしても、……悲しまない筈が、ないじゃないですか。



話しながら、はらはらと涙を流す彼を、一体誰が邪悪だなどと言ったのだろう。
ただただ真っ直ぐに、悲しみを汲み取るこの青年を、誰が魔王だと言ったのだろう。




ゆっくりと、黄金に光る髪に右手を伸ばす。
涙に濡れた目は、驚愕の色に染まる。だが不思議と、私の伸ばした手が叩き落とされる事はなかった。

そろりと触れて、慈しむ様に撫でた頭は仄かに暖かい。生き物の温度だ。
彼がぱちりと瞬きをし、目元に溜まった涙が落ちた。



…どうしてですか。
私に優しくするのは、どうしてですか。
貴方に優しくされる権利は、私にはないでしょう。私に優しくする事で、貴方に利点は何一つないでしょう。
どうしてですか。



理解出来ないという様な顔で疑問をぶつける彼に、私が伝えられる言葉は少ない。



何故だろうな。
私は、してみたくなったんだ。




…どうして、ですか。
疑問を紡ぐ青年の声に、徐々に嗚咽が混じり始める。そしてそれは、次第に意味のある言葉にならなくなっていった。
私はその嗚咽が止むまで、彼を撫でる右手を動かし続けた。








悲哀の人達







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