後に続く日常




「…なあオッサン、悪かったよ」


俺はそう、目の前の茶色の物体に話し掛けた。




俺は最近、毎日朝夕、近道としてとある公園を通る。

そして毎回、今はただの茶色の物体に成り果てているオッサンに出会っている。何故か、このオッサンはどの時間帯に通ってもこの公園に居るからだ。
家が近いのか、はたまたここに住んでんのか。いや、そもそも始めて会った時の行動から考えると、人間じゃない可能性も捨てきれない。しかし、幽霊にしては見えるし触れるし。


思考が大幅にずれた。
とにかくこの謎多きオッサンに、俺はどういう訳だか気に入られたらしく会う度に毎回また会おうと言ってくる。怪しすぎるオッサンだとは思うが、まあ無害だしな…と会話をしていた。


そう。土日が来るまでは、毎日。
元々自宅と大学までの道のりを縮めるからこの公園を使っていたのだから、当然土日は公園を通らない。


そして月曜。特に何も考えず普通に公園を通ってみたら、茶色の物体が半分死んでた。
つまり、オッサン拗ねてた。



「おい、オッサン…」

別に俺は、このモソモソと動く生き物と会う約束をしていた訳じゃねぇ。毎日毎回、また会おうとは言われていたが約束ではない筈だ。
だが、何だこの罪悪感の様な物は。俺か。俺が悪いのか。分からん。



「……って、やべぇ!」

腕に付けた時計をちらりと見れば思いの外時間が流れていた。

「講義始まる!!」


悪いなオッサン!と一声かけて大学に向けて走り出す。
恨みがましそうな、なおかつしょげた様な視線が背中に突き刺さった。






「………あー…」


滑り込みで間に合った講義も終わり机に突っ伏していると、友人が声をかけてきた。


「おいおいどうした?彼女のご機嫌でも損ねたのか?」
「ちげぇよ」

彼女をオッサンに変えると、大体合っている様な気がする。いやそんなんは考えたくない。


「そんな時は花だ。花持ってけ、花」
「いやだから…」


話も聞かずに、花貰って悪い気する女はそんなにいねぇよ、と言いながら笑う友人をぶっ飛ばしたくなった。ちげぇっつってんだろ。


だが、ふと考えてみる。
あの髭面のオッサンが、顔を顰めながら色鮮やかな花束を抱えている。察するにあのオッサンはそういう貰い物の類を捨てられない。困った様に眉を潜めて、けれど捨てられずに茫然と立ち尽くすだろう。想像するだけで、実にミスマッチだ。

オッサンは突然の花束という不可解な出来事で今朝の事は忘れる。そして、そこそこ平和な嫌がらせを兼ねていて。俺は微妙にアンバランスな光景を見て笑う。


「……なあ、この辺に花屋ってあったっけ?」


どうにもこれが、中々いいアイディアの様に思えてそんな事を聞いていた。

オッサンに花束はどう考えてもおかしいしそもそもオッサンが拗ねていても何の問題もないという事実や、オッサンをほっとく選択肢が最初から存在しないという不自然な違和感にも気付かなかった。


気付かなかった所為で俺は意気揚々と花束を買いに行った。
オッサンは嫌がるどころか全力で喜び、俺はまたしても抱き潰されるとも知らずに。







火炎ビン以来の贈り物







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