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オルステッド+魔王キドマド(LAL)3


オルステッド+魔王キドマド(LAL)9/21、3/6の続き
別次元の、普通に魔王を倒したオルステッド
現在位置→魔王サンダウンがいる西部


注意:死ネタ・グロの可能性・マッドに土下座で謝るしかない話





人形。死体。
考えた瞬間、目眩がした。
細部まで精巧に作られた人形だとしても、純粋に死を迎えた死体だとしてもおかしい。何かが歪んでいて決定的な不自然さがそこにある。

砂を踏み締める音がして、そこで初めて自分が一歩後ずさりしていた事に気がついた。怖い、と感じたのかもしれない。



不意に、風を斬る軽い音が聞こえた。
咄嗟に黒い椅子から距離を取れば、それと同時に今まで居た場所に穴が開いた。


「…離れろ」


どこからか届いた低い声が空気を震わせた。更に椅子から離れ目を凝らせば、一瞬前までは確かに何もなかった場所に茶色の外套が翻る。

音もなく現れた人は、私を視界に入れるなり少しだけ顔を歪めた。まるで驚いた様な、そんな表情筋の使い方だった。何故そんな顔をするのだろう。私はこの人を知らない、ならばこの人も私を知らない筈だ。
動揺も隠せずにいる私を尻目に、その人は黒い椅子に座った彼に向き直りそっと触れる。壊れものを扱う様な仕草が、何故か恐ろしかった。


私はその様子を見ながら、出来るだけ背筋を伸ばして口を開いた。


「貴方は、…貴方がこの場所の主ですか」
「…………」


彼は何も言わなかった。するりと黒服の人の頬を撫でた。無言を肯定と取ればいいのか否定と取ればいいのか分からない。それでも何かに急かされる様に質問を続ける。


「貴方は誰ですか」
「……さあ…」


要領を得ない答えが返ってきた。坦々とした言葉の調子から嘲りなどは感じられない。誤魔化されている訳でも、馬鹿にされている訳でもない。興味がない、どうでもいい、そんな雰囲気を感じる。


「貴方が、魔王?」
「……魔王?…ああ、そうだな。恐らくはそうだろう」


特に感慨もなさそうに彼は呟いた。自分の立場や名前すらもどうでもよさそうだった。この応答にはあまり意味がないのかも知れない。
そっと黒服の人に視線を移す。彼の視線は不自然なくらい揺らがない。


「……その人は、…」


何と聞けばいいのか分からず口をつぐむ。人形ですかとは聞けず、死んでいるのですかだなんてもっと聞けなかった。それでも聞きたかった事が伝わったのか、彼は答えを返す。


「死んではいない」
「生きてもいないけれど」


会話を試みてから初めて、彼の声に何かの感情が乗る。饒舌とは言えない様子で、途切れ途切れに話を続けた。


「傷を塞いで。血を戻して。使い物にならなくなった臓器を取り換えて。擬似的に鼓動を打たせても。死んでいない筈なのに、生きてもいない」
「目を開けさせ、声帯を振るわせて、思い付く限りの彼らしい言葉を吐かせても、マッドにはならない。マッドの身体ではあるのに、」




どうしても。

そう、ぽつりと呟くその低い声を聞きながら思う。
死んではいないと言った彼は、マッドという人物が既に死んでしまった事実を誰よりも認めているのではないかと。それでも諦められずに、綺麗なままの亡骸を大事に保存しているのではないかと。


動かない黒い目をぼんやりと見つめる、彼の横顔には感情の起伏は見られない。視線を返さずにいる黒い目玉は、何の生き物の反応もしなかった。




「…私は、貴方を止めにきました」




気づけば、私はそう言っていた。
自分でも少し驚きつつも言葉の撤回はせず、躊躇いながらも剣を引き抜き彼にかざす。

それを横目で見た彼は、ゆるく笑った様な気がした。此方に向けられた赤い色の目には確かに正気が映っている。



「…それを待っていたんだ」







まだ終わらない








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