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オリジナル


この話は、反社会的な犯罪行為が行われています。ぶっちゃけ拉致監禁で、軟禁です。そのくせ緩やかです。
長め。ご注意下さい。










「………卯月、卯月!」
「いや、すみません。俺の名前、卯月じゃないで」





す。と言い切る事は、ちょっと出来なかった。



後ろから声をかけられて、そう返事をした瞬間にスタンガンらしき物で昏倒。

突然降って湧いた非日常を理解した時は、うわぁ…何だこれ…としか思えなかった。



後から分かった事だけど、俺を気絶させて拉致したのは、兵藤さんという人だった。体格そこまで変わらないのに拉致とか、無駄にすごいガッツだと思う。

その人の家に連れ込まれての監禁から、今日で早くも四日目の朝を向かえる。長期休みに入ったばっかりで本当によかった。



しかしベッドに縛り付けられて迎えた、初日の朝は最悪だった。
手も足も首も枷付きで気絶してたから、あちこちギっシギシ。スタンガンを押し付けられた辺りも本当に痛かった。
何より、目の前には俺の頭を撫でながらニコニコしてる変態。正直、絶句した。



そんな完璧なる拉致監禁から、軟禁クラスに落ち着いたのは一重に俺の努力だと思う。逃げる、怯える、反抗する、拒絶する、怒鳴る、けなす辺りは出来るだけ避けた。我ながら頑張った。

おかげ様で現在は、家の中を割と好きに歩けるレベルで落ち着いてる。
鎖付きの足枷だけは外されなかったけど。好きに歩けても大体寝室から出られなかったけど。出られても兵藤さんくっついてたけど。




そんな、毎日毎日飽きもせずにくっついていた兵藤さんは、今日仕事で外に行くらしい。仕事してたんだこの人、と思ったのは仕方ない。丸々三日間、ずっとべったりだったから。



「卯月オレの卯月、逃がさないから今度また逃げたら許さない絶対に見つけて今度はころす」
と一息で言われたので、

「はいはい卯月じゃないけど逃げませんよー」
と言って送り出した。
朝からバイオレンスだ兵藤さん。





兵藤さんは、ストーカーだ。
しかも俺のストーカーじゃない。
卯月…俺の父さんのストーカーだ。


ずっと卯月と呼ばれてるので、間違いなく俺を父さんだと思ってるんだろう。兵藤さん、十中八九病んでる。

しかも彼が話した内容を纏めると、昔父さんも拉致監禁したらしいという事が分かった。兵藤さん、病んでるってレベルに収めていいのか迷う。

親子二代に渡ってとか凄まじい。三十後半、四十前半くらいの人が何をやってるんだろうと思わなくもない。


しかし、そこまで父さんに執着してるのに、そこそこ似てるくらいの俺でもいいんかなとは思う。まあ、いいからこんな状況なんだろうけど。





とりあえず、久方ぶりの自由をどうしようか。

脱出するなら今なんだろうけど、初っぱなから逃げて速攻で捕まったら目も当てられない。逃げる素振りだけでもアウトな気がするので、家捜しなんかもよくないかな。





…する事がない。

テリトリーになりつつある寝室で何か出来ないかなぁと思っても、ベッドと洋服ダンスとルームランプ、あと出入口のドアくらいしかない部屋じゃどうにもならない。
………一人しりとりとか…やめておこう。この年でそれは悲しすぎる。
……筋トレ…明らかに筋力衰えてるだろうし、やって損はないかな。なんとなくそんな気にならないけど。そのうちそのうち。




ぼんやりとやれる事を考えてたらお腹が空いてきた。この部屋時計がないから正確には分からないけど、今は多分昼頃。
よし、ご飯食べよう。


昼は冷蔵庫の中、とか言ってたので台所へ。
移動中、じゃらじゃらと左足首に付いた足枷と鎖が音を鳴らす。地味に邪魔で結構痛い。でも外して欲しいと言ったらまた面倒そうだ。これくらいは仕方ないかな、軟禁だし。




そっと冷蔵庫の中を物色してみる。

…手作りっぽいサンドイッチとおにぎりが混在しているのは何なんだ。
んー…俺がパン派かご飯派か分からなかったから両方作ったのかな。変な気遣い方だ。


……両方食べたら流石に…いやいや育ち盛りの高校生、これくらい食べられるって。頑張れ。
冷蔵庫にあったお茶を注ぎつつ、自分で気合いを入れた。



結論を言うと、普通に美味しかったけどやっぱり量が多かった。
食べすぎで喉まで一杯な感じを何とか堪える。

途中で、残して夕飯とかの方がいいんじゃないかという疑問と、むしろこれ残った方は夕飯予定だったんじゃという懸念も沸いた。
今更だった。


さっきはやる気なかったけど、やっぱり筋トレはしよう。消化したい。
そんな事を思いつつも、使った食器を片付けようと流し台に近付いた。ら、


…兵藤さん。包丁が、普通に置いてあるよ。
無用心だなあの人。

後ろから刺されてもおかしくないくらいの事やってるのに、抜けてるというか。



まあせっかく包丁があるので、夕飯は俺が作ろうかな。

やる事ないし。
料理は別に得意でも苦手でもないけど、簡単な物なら作れるし。
残ったおにぎりかサンドイッチを、夕飯にする予定だったりしたら悪いし。




しばらく冷蔵庫の中身を眺めた結果、作るのは初心者の定番カレーライスに決定。
米は炊飯器に頼れば炊けるし、カレールーも発見出来た。ついでにピーラーも。すこぶる初心者に優しい。

後は肉とじゃがいも、玉ねぎにニンジン。ごくごく一般的なカレーの材料。全部あってよかった。
念の為、ルーの箱の裏側に書かれた、手順通りに作り始める事にした。








夕方になって帰ってきた兵藤さんは、怪訝な顔をしてた。
それはそうだ。何故だかカレーの匂いがするんだから。


「あー兵藤さん、お疲れ様です。カレー作りましたけど食べますか?」
「カレー…卯月が、カレー」

「卯月じゃありませんが、カレーではあります」
「……」

どんよりと暗い、いつでも死んでる目を数回瞬きさせた後、割合はっきりとした声で宣言した。


「食べたい」


まるで小さい子みたいな言い方でそう言うから、なんか、吹き出しそうになった。


「……はい。じゃあ、ささっと着替えてきて下さい」
「分かった」


素直だ。
食べ物で釣れるんだな、病んでても。
早々に着替えてテーブルについた兵藤さんの前にカレーを置いて、自分の前にも置く。


「辛口ですけど大丈…、って兵藤さん家の台所にあったんだから大丈夫ですよね」


こくりと頷いてスプーンを持つ、恐らく四十代は微妙にシュールだ。


「いただきます」
「はいどうぞ」


特になんの躊躇いもなく、はくはくと食べ始める兵藤さんを見てひっそりとため息をつく。


自分が軟禁してる人の作った料理を、こんなにあっさり食べるなんて。
…毒とはいかなくても、何か入れられてるんじゃ…とか考えないんだろうか。調理過程も見てないのにね。
根がお人好しなのかもしれない。まあお人好しは軟禁しないけど。



「うまい」
「どうも。まあ、市販のルー使いましたから」


美味しくなかったら困る。
まあ褒められたら、嬉しいと言えば嬉しい。


「卯月、卯月また明日も作ってくれ」
「卯月じゃないんで。でも、作るくらいなら別にいいですよー」



もくもくと、嬉しそうにカレーを食べ進める兵藤さんを見て、明日の献立どうしよう俺レパートリーとかあんまないんだよなぁ、と思った。







緩やか軟禁ライフ






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