05 (天文学部)
全組のステージが終了して、残すは結果発表のみ。
参加者はステージ上に並んで緊張した様子。
その中に1人。明らかに様子の違う奴が。
「ドキドキするね…優勝、できるかな…」
『大丈夫でしょ、あいつらなら。…ってか、何よあいつ。全然緊張してないじゃない』
隣の動物園のクマのようにそわそわする林檎をよそに、飄々と観客のほうをボーっと眺めている高飛車。
そんな中飛び込んできた司会者の甲高い声。
「さーーていよいよやって参りました!結果発表のお時間でございます!!」
「きたーーー緊張する……」
『りよが緊張してどうすんの』
「だって……林檎の緊張が移っちゃって…あんなにそわそわしてるし…」
『あんたたちって昔っからそうよね…』
美波旅生があまりにも落ち着いているから、自然とこっちまで落ち着いてくる。
まるで自分が優勝するのが当たり前みたいな顔で舞台上に立っていて、いけすかないような、安心できるような。
「それでは発表いたしまーーす!優勝は………」
照明が暗くなり、ピンスポットが参加者全員の上を行ったり来たりする。
スッと動きが止まり、観客の視線がいっぺんにそちらに向く。
「美波旅生くん、鳴上林檎くんペアです!!」
わああという歓声と共に送られるたくさんの拍手。そんな中それを遮るかのように響く男の声。
「あの、ちょっとすいません。僕ら、辞退したいんですけど?」
「「「………っはあああああ?!??!」」」
林檎、りな、りよが一斉に声をあげたと同時に、すたすたと舞台上から下りていく美波旅生。
「は、おい、旅生?!ちょっと待てって!」
それを追いかけてはけていく林檎を、ただ茫然と眺めるしかない私たち。
『…いつ』
「ん?」
『あいつ!!!!!何様のつもりよ!!!!!!りよ、行くわよ』
「え、行くって、どこに?」
『どこにって…美波旅生のところに決まってるでしょ!』
りよの手を引いて、早急に美波旅生が行ったであろう控室に向かう。
ガチャ
『居た。』
「はっ、君か。何しに来たの。」
いけすかない態度の美波旅生にますます腹が立ってくる。
『あんたねぇ、なんで辞退なんかしたのよ。バカなの?林檎がどれだけ練習したかわかってるの?それに、あんただって。この大会に向けて練習してきたんじゃないの?』
「…わかってないなぁ、君は。レベルが低すぎるんだよ、あんな大会。君も見ただろ?参加者のレベルの低さ。あんなんで優勝なんかもらったって嬉しくもなんとも…」
パチン
美波旅生の世の中をなめきった態度に思わず手が出る。
ふざけんな。
『……あんたねぇ、なめてんじゃないわよ?参加した人たち、どんな気持ちで練習してきたと思ってんの!?あんたがレベル低いなんて理由で優勝辞退したことで、負けた人たちの努力がすべて否定されたことになるの。あんたはそれを全部負った上で辞退すんの?』
問い詰めても黙ったままの美波旅生。
『…黙ってないでなんとか言いなさいよ!!』
「君には…関係ないだろ。これは僕の問題だよ?」
関係ない、そう言われてしまったら返す言葉がないのだけれど。
どうしても、こいつを正してやりたい。そう思ってしまう心の中のもう一人の自分をそっと抑えつけて。
そう、わかったわ。
そう言ってりよの手を引いて、いつもより強めに扉を閉めて部屋を出た。
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