「あー暇だー」
今日は待ちに待った休日なのだが、あいにくと何も予定がない私は部屋でごろごろとしていた。
読書でもして時間をつぶそうとしたのだが、なんだか落ち着かなくて途中で放り投げてしまった。
他にも授業の予習や復讐、鍛錬をしようとしたが結果は同じだった。
集中力はないほうではないのだが、あの日以来何をするにも落ち着かなくなってしまった。
そう、あの迷子事件の日から。
何をするにも留三郎のことが気になってしまい、普通の状態でいることが難しくなってしまった。
今も留三郎は何してるんだろう、なんて考えてしまっている自分がいる。
気になるなら会いに行けばいい話なのだが、何の用もなく留三郎のところへ行くのは気が引ける。
「あー!もー!」
考えれば考えるほど頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。
ぐちゃぐちゃがひどくなり、イライラがどんどん増していく。
ついにはイライラが爆発して、怒りを消化するために私は手近にあった枕をぶん、と放り投げる。
枕は綺麗に戸に向かって飛んでいった。
しまった、このままでは障子が破れるではないか。
私が慌てて飛んでいく枕を追いかけようとしたその時、「失礼するねー」と伊作が戸を開いた。
「ああああああああ!」
私の叫びもむなしくそして期待を裏切ることなく、綺麗に枕は伊作の顔に一直線に飛んでいった。
枕は伊作の顔にストライクしてから、床に落ちた。
力任せに投げたから威力は相当だったのだろう。
枕が当たった伊作は痛みに顔をおさえてもんどりうっていた。
私は慌てて伊作へ駆け寄って伊作を助け起こした。
「ご、ごめんね伊作・・・!私何も考えずに投げちゃったから・・・!!」
「ううん、いいんだ。急に入ってきた僕が悪いんだから」
あははーと笑って気にしないで、と伊作は言うが、鼻からは血がでてせっかくのイケメンが台無しになっていた。
「本当にごめん!ちょっと悩んでて・・・!」
「悩み?」
「あ、うん・・・そのーえっと・・・」
「もしかして留さんのこと?」
留三郎、の単語にぴくり、と肩が跳ねてしまった。
伊作はやっぱりか、と納得して「僕でよかったら相談にのるよ?」と申し出てくれた。
一人でいつまでも悩んでるのは性に合わないので、伊作の言葉に甘えることにした。



「ふーん、そっかー」
私の話を聞き終えた伊作が、手を顎にあててふむ、と頷いた。
「海里ちゃん、それは留さんのことを男として見始めたからじゃないかな?」
「男として・・・?」
思い返して見れば、私は留三郎のことを男として見たことが一切なかった気がする。
どっちかというと気の合う男友達とか、保父さんとか、そんな目で見ていたような気がする。
いつの間にか一緒にいるのが当たり前だったから、そういう風に意識することもなかったし。
でも、あの時、手をつないだとき感じた気持ちは。
「うん・・・伊作の言うとおり意識し始めたのかも・・・」
あの時感じた気持ちに嘘はないからそう口にすると、伊作は「そっかそっか」と自分のことのように喜んだ。
「これで留さんも報われるよ」
「え?」
「留さんはね、ずっと好きだったんだよ海里ちゃんのこと。ずっと、ずっと見てた。海里ちゃんが自分のことそういう風に見てないのなんて百も承知だったけど
、それでも諦めずにずっとずっと海里ちゃんのこと見てたんだよ。女の子として」
「そんなに・・・ずっと?」
「うん。もうずっとずっと昔から。たぶん一年くらいのときからじゃなかったかな。何度も僕相談されたんだよ」
そんなに、そんなに留三郎は自分のことを見ていてくれたのか。
留三郎の自分に対する想いに、胸の奥がじんと熱くなった。
「ねえ、海里ちゃん。一つ約束して」
伊作がすっと手を伸ばして、私の手と自分の手を重ねた。
「留三郎の想いにどういう答えをだすかは海里ちゃんの気持ちしだいだけど・・・逃げないでね。ちゃんと受け止めてあげてね」
重ねられた手が、逃げるなと、ぎゅっと握られる。
「うん、ちゃんと受け止めるよ。約束する」
伊作の手をぎゅっと握り返すと、力が入りすぎたのか伊作がちょっと痛そうな顔をした。
「あ、ごめん・・・!」
「いやいや、いいよいいよ。ありがとね」
「ううん、私こそありがと。伊作のおかげで・・・少しだけ前に進めそう」
「そっか。あー・・・じゃあさ」
ちょいちょい、と伊作が私に近づくように手招きする。
伊作の言うとおり伊作の近くまでいくと、耳元に口を寄せられてささやかれた。
「今度逢引でもしたら?きっと留さんのこともっと解ると思うから」
「ああああ、逢引きぃいいい?!」
「ま、頑張ってね」
にっこりと微笑みながら、ぽんぽんと私の肩を叩いて驚き固まっている私を放置して伊作は出て行ってしまった。
伊作って優しいけど時々恐いよ。
混乱してどうしようもない頭を抱えながらのた打ち回っていると、「邪魔するぞ」とがらりと戸が開いた。
「・・・お前、大丈夫か?」
入ってきたのは、なんと今一番会いたくない留三郎だった。
ショート寸前だった私の頭は、ぼん、と大きな音をたててショートしてしまった。



「さてと、お膳立てはしてあげたよ留三郎。後は二人しだいだよ」
さて、吉とでるか凶とでるか。
願わくば吉とでますように。
長年付き添ってきた親友として、そう願わずにはいられなかった。


2009.10.02

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