鳥の騒がしい声で目が覚める。
まだ起きるのには早い時間だったが、目が覚めてしまったので起床する。
戸を開いて、朝の気持ちいい空気をおもいっきり吸い込む。
(今日はとってもいいお出かけ日和だなぁ)
今日は用具委員の皆とお出かけの日なのである。
昔からお出かけとなると、心が弾んで朝早く起きてしまう自分はまだまだ子供だな、と苦笑する。
一年のときの遠足なんか、初めての遠足だったのでまだ日もでていない時に起きてしまったものだ。
留もそうだったらしく、ばったりと廊下で鉢合わせした私たちは、今日の遠足について熱く語った想い出がある。
ついでにそのハイテンションのまま留と一緒に野原を駆け回り、途中留とはぐれて迷子になった記憶も蘇ってきた。
(本当にあの時はみんなに迷惑かけたなぁ)
文次郎と仙蔵には散々怒鳴られたし、長次は何も言わなかったものの、無言の圧力がものすごく重かった。
あの時もう二度と迷子などなるまい、と心に誓った。
「さて、と。準備するか」
過去の思い出を胸に再びしまって、うん、と背伸びをしてから戸を閉めた。



「じゃあ各自、これを買って来るんだぞ」
町につくと、留はしんべヱ、喜三太、平太、作兵衛にそれぞれ買うものが書かれた紙を渡した。
今回は買うものが多いので、時間削減のために分担して買い物を済ませようということになったのだ。
後輩たちには見つけるのが簡単で軽めのものを頼んだので、私たちは必然的に重めのものが残った。
海里一人じゃ辛いだろう、ということで私たちだけ二人行動で買い物をすることになった。
「私今日朝早く起きちゃったよ」
「はは、奇遇だな。俺もだ」
荷車を引く留とたわいのない話をしながら、人であふれる町の中を歩く。
この町には用具委員の用事でよく来るが、食べ物から日常雑貨まで様々なものが売られているので、ついつい目移りしてしまう。
ふと、色鮮やかな赤と青のかんざしが目に入る。
私は思わず立ち止まって、その美しい赤色のかんざしを手にとる。
光に反射して、きらきらと玉が光る。
「すごい綺麗だなぁ。ね、留もそう思わない?」
留の意見を聞こうと後ろを振り返ったら、後ろにいたのは見ず知らずの人だった。
(あ、あれ?)
きょろきょろとあたりを見渡すが、どこにも留の姿はなかった。
これはもしやはぐれたのではなかろうか。
(そ、そうだ。留最初にどこ行くっていってったっけ・・・)
思い出そうと記憶をたどるが、焦る気持ちが邪魔して上手く思い出せない。
どく、どく、と心臓がうるさい。
(と、とにかく留を探そう)
かんざしを元の位置に戻して、私は町の中を走り出した。




海里がいない、というのはすぐに気づいた。
今まで続いていた会話がぱたり、と止んだので不審に思って振り返ると、そこに海里はいなかった。
その辺にいるんじゃないか、とあたりを見渡すが、あふれる人で海里の姿を見つけることができない。
(くそ!)
好きな奴がいなくなったのに呑気に歩いていた自分に怒りがわいてくる。
荷車を握る手がぐっと強くなり、あまりの強さに荷車がギシギシと音をたてた。
(あ、やべ)
力を弱め、落ち着け、と自分の頬をぴしり、と叩く。
海里はきっとこの辺にいる。だったらこの辺の店にいるかもしれない)
頬の痛みで冷静になれた俺は、さっそく近くの店からこんな女の子がこなかったか店主に聞いていく。
一件、二件、三件、四件、五件。
どの店も空振りで、もしかして海里はもっと遠くに行っているのかもしれない、と俺が思いだした六件目。
「ああ、その子なら確かそこのかんざし見てたよ」
「本当ですか!その子何処に行きましたか?」
「うーん・・・私が次にそっちを見た時にはもういなくなってたからわからないなぁ」
「そうですか。ありがとうございます」
店主にぺこり、と頭を下げて俺は再び人波にのまれる。
詳しい情報はつかめなかったが、ここに海里がいたということはわかった。
(さて、何処へ行った?)
俺は海里がとりそうな行動をひねり出そうと、頭をフル回転した。
(そうえいば)
ふと、一年のときの遠足を思い出した。
あの時も俺は今のように海里とはぐれてしまい、必死になって海里を探していた覚えがある。
(あの時・・・あいつ・・・)
一気にあの時の記憶が蘇ってきて、映像となり目の前に広がる。
(そうだ!あいつ・・・!)
俺は荷車を放り出し、町の中を駆けていった。


ぽた、ぽた、と地面にシミができる。
「留・・・留・・・!」
落ちる涙も気にせず、私は手を伸ばして留の姿を探す。
こんな歳にもなって迷子で、さらに泣くなんてみっともないが止まらないものはどうしようもない。
泣き続けて何時間、何分たったかなんかわからないが、きっと自分の顔はぐしゃぐしゃで、化粧も崩れてみっともなくなっているに違いない。
「留・・・何処なの・・・?留・・・!」
人波にのまれながら、私は留の名を呼び続ける。
こうしていたら、なんだか留が現れる気がしたから。
(そうだ・・・あの時も・・・)
手を伸ばして。
泣きながら。
留の名を。
「海里!!」
がっと伸ばしていた手が掴まれる。
「留・・・!」

ああ、やっぱり。
あなたはちゃんと私を見つけてくれる。

「ごめん」
そのまま留の胸の中に引っ張られて、ぎゅっと抱きしめられる。
「あの時俺『今度はちゃんと見てるから』って言ったのにな」
「ううん。私こそ『迷子になんかならないから大丈夫!』って言ったのに。
そう私が言うと、留はなんだ、と笑い出す。
「お互い様だな」
「そうだね」
私も留につられて笑ってしまった。
さっきまで泣いてたのが嘘みたい。
「ほら、行くぞ」
留が私に向かって手を差し出した。
「うん」
差し出された手を、ぎゅっと握る。
手を繋ぐなんて久しぶりだったからかなんだか照れくさかったが、今はこの温もりを感じていたかった。
(何だか胸がドキドキしてるのは気のせいだよね・・・!)


集合時間に大幅に遅れて集合場所まで戻ると、顔を真っ青にして頭を抱えている作兵衛と、泣き叫んでいる一年たちがいて、私たち二人はごめんとひたすら謝るしかなかった。

2009.08.15

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