留に告白されてから数日たった。
私はというと留とぎくしゃくするわけでもなく、今まで通り普通に接していた。
留もいつも通りに接してくれているので、告白されたのって夢だったのではないだろうか、なんて考えてしまう。
しかし告白されたのは事実なのだ。


「つまらん」
食堂でおばちゃんの美味しい味噌汁をすすっていると、突然正面に座っている仙蔵が言い出した。
「何がつまらないのよ?」
聞き返すと、仙蔵はお前だお前、と箸で私を指した。
「留に告白されたのに何だその態度は!もっとこう・・・キュン!となったりしないのか?実につまらん!」
わざわざ胸に手を合わせ乙女のようにキュン!とポーズをとる仙蔵に、私は飲んでいる味噌汁を吹き出しそうになったが、なんとか堪えることに成功した。
どこから突っ込んでいいものか悩んだが、とりあえず最大の問題のほうに突っ込んでおく。
「・・・なんで知ってるの?」
留が「俺、海里に告白したんだ」なんて言い触らすとは思えない。
というかそんな誇らしげに留が言い触らすなんて想像できない。
情報源はいったいどこからなんだ?!私が目を白黒させていると、小平太がにかっと笑った。
「なんだ海里知らなかったのか?もう私たち五人はとっくに知ってるぞ」
なぁー、と小平太が隣にいる長次に話しかけると、長次はこくり、と頷いた。
文次郎は何を今更という顔でこっちを見ているし、伊作は苦笑いしている。
まさかこんな短期間で皆に知れ渡っているとは思ってもいなかった。
別に皆に知られたからといって困るわけでもないが、仙蔵にはあまり知られたくなかった。
(絶対いじられる・・・!)
私の予感は的中した。
仙蔵はだん!と机を勢いよく叩き、綺麗な顔をずいっと近づけてきた。
「前々からお前は恋愛とかそういうものに無頓着だと思っていたが、こうもあっさりしていてはこっちがつまらないではないか」
「仙蔵、私に何を期待してるのよ・・・」
「それはもう!こう!乙女的な反応をだな!」
「あー・・・、うん・・・無理」
そんな自分が想像できなくて、仙蔵の言葉をばっさり切り捨てると、仙蔵に思いっきり肩を掴まれた。
「無理じゃない!きっとできる!」
「意味がわかりませんんんー!!」
仙蔵にぶんぶん揺さぶられながら他の面子に助けを求めるが、小平太と文次郎は自分のご飯の消化に夢中だし、長次はいつの間にかいなくなってるし、伊作は助けようとしてくれたのに味噌汁を盛大にこぼして大変なことになっていた。
(くそう・・・!役にたたない連中めええええ・・・!!)
私が恨み言を呟いていると、仙蔵がはた、と手を止めた。
仙蔵の顔を見ると、何か思いついたのか口元がにやり、と孤を描いていた。
私は嫌な予感がしたのでこの場を退却しようとそろそろ移動するが、仙蔵にものすごい勢いで手首を掴まれた。
「ちょっと来い」
それはもうとても綺麗な笑顔で言われ、拒否するなんてとてもとてもできなかった。



あれから私は文次郎と仙蔵の部屋に連れてこられ、そこに座ってるようにと言いつけられた。
逃げたら承知しないからな、と笑顔で言われたので、私は大人しく待つしかなかった。
私はこれから一体何をされるんだろうか。
考えれば考えるほど恐ろしくなり、早くこの時間が過ぎればいいのに、なんて思い出した頃に仙蔵はやっと来た。
その手には綺麗な着物と化粧道具が握られていた。
「すまない待たせたな。さ、今からお前を綺麗にしてやろう」
「ええええ、え?!」
事態がうまく飲み込めていない私をよそに、仙蔵は勝手に私の顔を好き勝手にいじくり始めた。
「ねえ、こんなことしてどーなるの?」
私の顔とにらめっこしながら化粧をする仙蔵にそう話しかけると、仙蔵ははぁ、と大きなため息をついた。
「お前は本当に男心というものがわかってないな」
「う・・・!すいません」
そういうのがわかっていたら、私はあの時ちゃんと返事をしてあげられたのだろうか。
そう思うと、なんだか心がとても痛んだ。
「そこでだ」
化粧が終わったのか、仙蔵は私をぐいっと引っ張って立たせ、持ってきた着物を私にあてて満足そうに微笑んだ。
「私が男心がどういうものか教えてやろう。有り難く思えよ」
準備ができたら呼べ、と着物を私に押し付けて、仙蔵は部屋から出て行った。
あれは私に協力してやる、という意味なのだろうか。
「なんだかんだ言って、最後は結局面倒見てくれるもんね・・・」
押し付けられた着物をぎゅっと握り締めて、私はありがとうと小さく呟いた。



「かんっぺきだ!」
準備が出来たので仙蔵を呼ぶと、着物を着た私を見て仙蔵はさすが私と自分を賞賛した。
どんな姿になっているのか全くもってわからないが、仙蔵がそういうからにはきっと完璧なのだろう。
「さあ海里、行くぞ」
どこへ行くのか聞く暇もなく、私は仙蔵に連れられるがまま忍たま長屋を移動する。
少し歩いたところで仙蔵の足が止まったので見てみると、そこは留と伊作の部屋の前だった。
(なんでこんなところへ来るんだろう?)
私が首をかしげている間に、仙蔵はすぱん、と戸を開いた。
いきなり戸が開いたので、部屋にいた留が驚いてこっちを見る。
仙蔵には遠慮のかけらというものなんてないんだね。
留がもし着替え中とかだったりしたら、私どう反応していいか困ってたところだよ。
「おい、仙蔵いきなり何だよ」
座っている留には仙蔵の影になって私は見えていないようだ。
怪訝な顔をしている留に、仙蔵は「土産だ」と言って私の背中をどん、と押す。
いきなり押されたので私はなすすべもなく、留の前に踊りだす。
座っていた留があわてて立ち上がり、私を受け止めてくれたおかげで床とぶつかることはなかった。
「大丈夫か?!」
「あ、うん。大丈夫」
ありがとね、と笑って留を見上げれば、私を凝視したまま留が顔を真っ赤にしてフリーズしていた。
あまりにもカチコチに固まっているので、留の袖を引っ張って「留ー?」と名前を呼んでやると、我に返った留が変な奇声をあげながら私から離れた。
「おおおおお、おまっ!な、なななななんだその格好は・・・!!」
部屋の隅っこでわなわなと震えながら叫ぶ留を、満足そうに仙蔵が見やる。
「ふふふ、私が仕立てたんだぞ」
どうだ完璧だろう、とぼへっとしていた私を引っ張り、留の目の前にぐい、っと突き出す。
留はまた奇声をあげながら後ろに後退するが、壁に突き当たってしまい、逃げ場を失ってしまった。
逃げ場の失った留の目と、私の目ががっちりと絡み合った。
留はもう爆発するんじゃないか、ってくらい顔が真っ赤で、金魚みたいに口をパクパク開閉させ、声にならない声を出していた。
(留って・・・こんな顔もするんだ)
珍しい留の顔をもっとよく見ていたい、と凝視していたら、視線に耐え切れなくなったのか留が視線をふい、と横にそらした。
その時ぼそり、と「かわいすぎるだろ・・・」と呟いた気がした。
(ああ、仙蔵。私わかったかもしれない)

これが男心、って奴なんですね?


好きな奴がめかしこんで現れたりしたら、そりゃ男は揺らぐものですよ。

2009.07.20

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