「つ、疲れた・・・!」
「なんだー?もう疲れたのか?」
ぜえぜえ肩で息をしている私を、きょとんと小平太が見つめてきた。
体力馬鹿のあんたと一緒にするな、と怒鳴りたかったが、声を出すのも億劫なほど私は疲労していた。
なぜ私がこれほどまでに疲労しているかというと、今日一日この底無し体力の小平太に振り回されたからである。
最初はバレーしよう!と強制連行され体育委員会の面々と命がけのバレーをする羽目になったのだ。
試合中小平太が力任せにアタックしたボールがどこかに飛んで行ってしまい、用具委員から借りたものだから探しに行けと言われ、こんちくしょう小平太!と怨みながら探していると三之助が行方不明になってしまった。
みんなで日が暮れるまで探して迷子になっていた三之助を回収して、小平太の元に戻ったら満面の笑みで「続きやるぞ」と言われ小平太に逆らえるわけもなく、誰も動けなくなるまでバレーは続いたのだ。
次々と倒れていく後輩たち。
小平太から放たれる殺人ボール。
もう二度とバレーはしたくない、と心からそう思った瞬間だった。
今日のことをあらかた回想し終わったところで、私の息は段々と落ち着いてきた。
すぅっと大きく深呼吸して呼吸を整えて、小平太をぎっと睨み付けた。
しかし睨まれても小平太は動じず、いつもの余裕な笑みで私の睨みを返す。
それがまた悔しくて、私は子供みたいにべーっと舌をだして小平太を睨んでから自室へと戻っていった。


自室へもどってきてからも怒りは収まらず、ぶちぶちと小平太に対する不満を口に出しながら枕をぼすぼす殴っていた。
「あー!もー!なんでいつもいつも小平太は余裕なのよー!こっちはあんたに振り回されて余裕なんてないのにー!!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいると、突然ぽかり、と頭を殴られた。
見ると隣で寝ていたはずの友人がものすごい形相でこちらを睨んでいた。
「あんたねぇー・・・!人がせっかく気持ちよく寝てたのに・・・」
「ごご、ごめん!!」
私が土下座して平謝りすると、友人はそれで満足したのか、布団を自分の腰辺りまで引っ張り再び寝る体勢を作った。
「はぁ・・・それならあんたが振り回して余裕崩してやったらどーよ」
もそもそと布団にもぐりこむ友人がぽろりとこぼした言葉に、私は思いっきり食いついた。
「それだ!!」



というわけで翌日、私はさっそく実践することにした。
小平太と長次の部屋へずんずん足を進め、勢いよく戸を開いた。
開かれた戸の先にいた私を見て、小平太がぱあっと笑顔を咲かせて近づいてきた。
「おお海里何か用か?!」
「小平太!!デートするわよ!!」
それだけ言うと、小平太の返事もきかずに小平太を強制連行する。
いつもならデートに誘うときはちゃんと前もって予定が空いているか確認する私が、いきなり現れてデートしよう!と言うものだから小平太はさぞ驚いたに違いない。
どれどれびっくりしてる小平太の顔でも拝んでやろうと、こっそり後ろを振り返ると小平太は嬉しそうな顔で着いてきているではないか。
しかも不満の欠片も見受けられない。
ま、まあ最初は失敗するのは当たり前だ。
見てろよ小平太!今日こそはぎゃふんと言わせてやるんだから。
そうこうしていたら街に着いたので、私は考えてきた作戦を実行に移した。
「小平太ー、私今日は甘いもの食べたいなー。小平太もちろんおごってくれるよね?」
自分でも背筋が凍るくらいの猫なで声と、大概の男なら一ころな上目使いで小平太を見つめる。
「おう、いいぞー」
小平太はからからと笑って、気前よく引き受けてくれた。
あ、あれれ?
ここは作戦では小平太が照れながら「仕方ないなー。おごってやるよ」とか言うと思っていたのに!
野生児には色仕掛けは通用しないのか!
なかなかいつもの笑みを崩さない小平太にやきもきしながら、私は甘味処の甘味をこれでもか!というほど食べてやった。
小平太の財布事情なんてしったこっちゃない。
かなりの甘味を食べたのでそれなりの値段はしたのだが、小平太は「おお、足りる足りる」なんて笑ってやっぱり表情一つ崩さない。
余裕の表情に、なんとしても崩してやる、と私はさらに燃え上がり、考え付く限りの我侭を言い続けた。
服を買え。この髪飾りが欲しい。あそこの綺麗な泉まで行きたい。喉が渇いたから何か飲み物が欲しい。そこの有名な甘味処の甘味が欲しい・・・などなど。
一生分あるんじゃないってくらい我侭を吐き出したが、小平太は全てに笑顔で「おお、いいぞ!」と返すばかりだった。
段々そんな小平太を見ていて罪悪感が沸いてきて、ネタも切れたので私は我侭を言うのを止めた。
ぱたり、と私の我侭が止んだので、小平太が不思議そうな顔で私を見てきた。
「どうしたんだ?もういいのか?」
「あ・・・うん。ごめん、私の我侭につき合わせて」
にこにこと聞いてくる小平太の顔が見れなくて、目を伏せながら謝罪の言葉を口にすると、ぐしゃぐしゃと頭をなでられた。
「ん?これくらいなんてことないぞ!私は海里のためだったら何でもやってやるぞ!」
だって私は海里のこと大好きだからな、なんて耳元で囁かれてしまっては、小平太の余裕を崩したいなんて思いはどうでもよくなった。
小平太は私と違って、好きな人のためなら何でもできちゃうくらい懐の大きい男なんだ。
「まったく、小平太には適わないなぁ」
「ん?何のことだ?」
「こっちの話!!」
伏せていた目をあげ、まっすぐに小平太を見つめる。
私も小平太に負けないくらい、小平太のためなら何でもできるくらい懐の大きい女になってやるんだ。
そう決意して、私は小平太の手を掴んで夕日が傾きかけている街を走った。



「いけいけどんどーん!!」
「小平太・・・ま、まって・・・!」
今日も私は小平太に振り回され、私の腸は煮えくり返りそうだ。
ああ、小平太みたいに懐が大きくなるにはまだまだ修行が必要なようです。



2009.09.07


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