カーン、カーン、と午後の授業終了の合図の鐘が学園中に響き渡る。
委員長の掛け声と共に先生に「ありがとうございました」と礼を言って本日の授業はおしまい。
授業から解放された生徒たちは思い思いに散っていく。
滝夜叉丸もノートと忍たまの友を閉じ、長屋へ向かおうと席から立ち上がったとき、い組の教室の戸ががったーんと派手に開けられた。
「大変!大変だよー!」
大声で叫びながら教室に入ってきたのはタカ丸で、なにやらひどく慌てていた。
い組の生徒の注目を浴びながら、タカ丸は滝夜叉丸に向かって走っていく。
「大変!大変なんだよ滝くん!!」
走った勢いのままがっちり滝夜叉丸の肩を掴み、前後にぶんぶんと揺さぶる。
すごい勢いで揺さぶられる滝夜叉丸はたまったものではなかった。
「お、落ち着いてくださいタカ丸さん!」
「ああ、ごめん!」
滝夜叉丸の悲鳴にタカ丸はやっと落ち着きを取り戻し、滝夜叉丸を揺さぶるのを止めた。
視界がぐるぐる回って気持ち悪いのを何とか堪えて、滝夜叉丸はタカ丸に何があったのか問い掛けた。
タカ丸は「そうだった!」と声をあげ再び慌てだすので、落ち着いてから話をするよう注意した。
落ち着くために何度か深呼吸してから、タカ丸は話し始めた。
「それがさ、三木くんが熱で倒れちゃったんだよ!」
「なんだ、そんなことだったんですか」
滝夜叉丸のあっさりとした返答に、タカ丸はぽかんと口が開く。
タカ丸などお構いなしに、滝夜叉丸はグダグダと「鍛練がなってませんね」「熱で倒れるなどアイドルとして失格だ」
「やはり体調管理もばっちりな私がアイドルに相応しい」など言って悦にひたっていた。
「ちょっと滝くん!三木くんが心配じゃないの?!」
余りの無関心っぷりに腹が立ったタカ丸が声をあらげると、滝夜叉丸は「心配?」と鼻で笑った。
「熱で倒れたのは三木ヱ門がなってないからですよ。何故私が心配などしなくてはいけな「もういいよ!」」」
あまりにも無礼な物言いに、タカ丸は最後まで滝夜叉丸の言葉を聞きたくなくて、途中でさえぎった。
同じ学年でいつも喧嘩ばかりしているけど、きっと二人は仲が良いと信じていたのに。
それはただの自分の思い過ごしだったのだ。
「僕、三木くんの看病してくるから」
それだけ言い残し、タカ丸はさっさと滝夜叉丸の前から去っていった。


教室を飛び出してからも、タカ丸の怒りは収まることはなかった。
いつもはほわほわとしているタカ丸から怒りのオーラが発されているので、すれ違う忍たまたちが何事かとタカ丸の顔をちらちらと窺っていたが、あまりの怒りっぷりに誰も声をかけようとしなかった。
あまり怒らない人が怒っていると、誰しも声をかけずらくなるものである。
「あやまぁ」
そんなタカ丸に声をかけたのは穴掘り帰りの喜八郎だった。
「あ、喜八郎くん」
「そんなに怒ってどうしたんです?」
眉間に皺がこーんなによってますよ、と自分の眉をよせて皺を作る喜八郎に、タカ丸はぷっと吹き出した。
「そんな顔してないよ僕」
「いいえ、こんな顔してます」
喜八郎はさらに自分の眉をよせてタカ丸に近づく。
その顔があまりにも面白すぎるのでタカ丸は笑いが堪えなくなり、ついに笑い出してしまった。
「その顔は反則だよー」
「そうですか?」
反則なら仕方ないと、喜八郎は眉をよせるのを止めて普通の顔に戻した。
「っで、何を怒ってたんですか?」
喜八郎の問いかけに、さっきまで自分がものすごく怒っていたことをタカ丸は思い出した。
面白さで怒りがどこかに吹き飛んでいったようだ。
「あ、あのね!」
喜八郎のおかげで冷静になれたので、さっき起こったことをタカ丸は落ち着いてゆっくり話した。
タカ丸の言葉を喜八郎は相槌をうたず、ただ黙って聞いていた。
タカ丸が話し終えると「そうですか」と言って、喜八郎はタカ丸の手を掴んでずんずんと何処かへ向かって歩き出した。
方角からして医務室へ向かっているようだ。
状況についていけず、ただされるがままになっているタカ丸に、喜八郎はきっぱりと言った。
「滝は馬鹿だけどそこまで馬鹿じゃないですよ」
一瞬だけ、喜八郎がくすりと笑ったようにタカ丸には見えた。



一方滝夜叉丸はというと、一旦部屋に戻ってから自主練をしようと思い立ち、的に向かって戦輪を投げていた。
いつもは百発百中といっていいほど的の真ん中にあたる戦輪も、今日は何故か的の真ん中に当たる回数が少ない。
しかも一年は組のお間抜けな連中のように、的からはずすなどという有り得ないことまでおきた。
「何故だ!いつも完璧なこの私が・・・!!」
もう一回戦輪を投げてみるが、やはり外れてしまう。
滝夜叉丸は「何故だー!」と叫びながらドンドンと地面を足で何度も踏みつける。
『ふふふ、やはり僕のほうが優秀みたいだな滝夜叉丸』
突然聞えてきた三木ヱ門の声に、滝夜叉丸はばっと背後を振り返るがそこには誰もいなかった。
(当たり前じゃないか。あいつは今熱で倒れてるんだぞ・・・)
ぶんぶんと頭を振って、もう一度戦輪を構える。
的の真ん中を狙って戦輪を思いっきり投げたると、また三木ヱ門の声が聞えてきた。
『ユリコ、ファイヤー!』
投げた千輪は大きくカーブして、いつも三木ヱ門が使っている的のほうへ飛んでいき、その的の真ん中へと突き刺さった。
『あー!なんてことするんだ滝夜叉丸!!』
「うるさいぞ三木ヱ門!!」
誰もいない隣に向かって、滝夜叉丸はぎゃんとほえた。
何故こんなにも三木ヱ門の声が聞えてくるのか。
これでは集中できないではないか、と滝夜叉丸は頭を抱えた。
『三木くんが心配じゃないの?!』
ふいに、さっきタカ丸に言われた言葉を思い出した。
「心配?私が・・・?」
滝夜叉丸はじっと隣の的に刺さった戦輪を見つめる。
『的を間違えるなんて腕がなまったな滝夜叉丸。やはり学園のアイドルはこの僕がふさわしい!』
「何を言う!学園のアイドルはこの私だ!!」
スタスタと三木ヱ門の的まで近づいた滝夜叉丸は、力任せに戦輪を引っこ抜いて、地を蹴って走り出した。


「タカ丸さんも喜八郎も・・・心配かけてごめん・・・」
「病気のときは心配かけていいんだよ、三木くん」
「そうそう」
ごほごほ、と咳込む三木ヱ門の背中をタカ丸が優しくさすり、喜八郎はタカ丸の言葉にこくこくと頷いた。
あれから二人は医務室まで来て、ずっと三木ヱ門の看病をしていた。
といっても看病していたのはタカ丸で、喜八郎はその辺でごろごろしていたのだが。
今も踏子ちゃんを見つめながらごろごろと医務室の床に転がっていたが、いきなり立ち上がって戸に向かって歩き出した。
何処かに行くのだろうか、とタカ丸は喜八郎の行動を見守っていると、「何突っ立てるの?」と戸の向こう側に向かって話しかけていた。
すると外から「突っ立てなんかいないぞ!」と声があがり、戸が勢いよく開いて滝夜叉丸が入ってきた。
「熱で倒れたそうじゃないか三木ヱ門。この滝夜叉丸がわざわざ見舞いに来てやったぞ。あ、言っておくがお前のマヌケ面を見るために来たわけであり、心配して来たわけではないぞ?」
わざわざ、の部分を強調して、いつもどおりグダグダと話し始める滝夜叉丸だが、顔は真っ赤で、ところどころ声がどもっていた。
明らかに心配してきました、というのが丸出しである。
三木ヱ門もそれがわかったのか、それとも売り言葉を買う気力もないのか「はいはい」と笑って受け流していた。
そんな三木ヱ門を見て、また滝夜叉丸が必死になって「違うぞ!お前を心配したわけではないんだぞ!」と弁解するものだから、タカ丸は笑いを堪えるのに必死だった。
くいくい、と喜八郎はタカ丸の袖をひっぱり、耳元でささやいた。
「ね、滝は馬鹿じゃないでしょ?」
「うん。滝くんは友達想いのいい奴だね」
タカ丸と喜八郎は二人のやり取りを、耳元でぎゃあぎゃあ言われてうるさくなった三木ヱ門が怒り出して乱闘になるまで見守っていた。


2009.08.25

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