伊作が薬草の在庫をチェックしていると、ドタドタと廊下から足音が聞こえてきた。
足音は伊作がいる保健室の前で止まり、すぱーん、と気持ちいい音をたてて戸が開いた。
「おい、伊作。手当てしてくれ」
入ってきたのは予想通りぼろぼろになった留三郎だった。
よくもまあここまでぼろぼろになるもんだ、と伊作はため息をついた。
「もー、また?」
ぶつぶつと文句を言いながら手当てをしてやると、留三郎は向こうが悪いなどとぎゃあぎゃあ喚き、反省している様子はない。
文次郎と留三郎の喧嘩は今に始まったことではないのでもう慣れっこだが、やはり二人が怪我をすると心配でたまらない。
「(まったく・・・こっちの身にもなってよね)はい、終わり」
反省しろ、という意味を込めてぺしり、と叩いてやると、留三郎は一瞬しかめっつらをしたが、文句は言わなかった。
「ありがとな」
服装を整えてから、留三郎は伊作にお礼を言って、来た時と同じくドタドタと保健室を後にした。
「まったくいつも騒がしいんだから」
使った薬草などを片付けながら、伊作はさきほどの留三郎の傷を思い出す。
やはり年々傷が酷くなっている。
それは二人の力が成長した証であり、いつ大怪我になってもおかしくないわけだ。
(そろそろ止めるべきかなぁ・・・)
しかし自分一人では二人を止めることなんて到底できない。
かといって、あの二人に対抗できる小平太に任せても、二人から三人に喧嘩相手が増えてしまうだけだ。
仙蔵は面白がって止めないし、長次なんて喧嘩に無関心だ。
(やっぱりここは僕がなんとかしないと!)
ぐっ、と拳を握り、伊作は、さてどうしたものかと思案にくれた。



「おい伊作ー。怪我治してくれ」
いつものようにがらり、と保健室の戸を開けるといつものように伊作がそこに座っていた。
しかしいつもなら自分が来た瞬間嫌そうな顔をするのだが、今日はなんがやけににこにこと笑っている。
「あ、留さんいいところに来たねー。ちょうどいい薬ができたんだよ」
「へー、そりゃよかったな」
あんなに機嫌がよかったのは新薬ができたからか、と留三郎は納得して、怪我をした腕を伊作に見せる。
「うあー、今日も相変わらずひどいね。でもこの新薬を試すにはいいかな」
伊作は新薬だという塗り薬を留三郎の腕に塗りたくる。
瞬間、留三郎の腕に衝撃が走る。
「いいいいいい!伊作!!!!」
「なーに?」
「なんかすっげー痛いしかゆいんですけどおおおおお!!」
あまりの痛さとかゆさにのたうちまわる留三郎を見ながら、伊作はにっこり微笑んだ。
「ああ、そりゃそうだよ。そういう成分のもの色々入れたからね。色々」
「色々ってなんだよ色々ってええええ!!」
ああ、そうだ。伊作の『新薬』っていっつもやばいものばっかりだったじゃないか。
留三郎は自分のうかつさをこれほど呪ったことはなかった。
「ねえ留さん、とっても痛いよね?」
あまりの痛さで言葉もでてこないので、伊作の問いかけに首を縦に振って答える。
「僕もね、それくらい痛いの。留さんが怪我してここにくるとね、すっごく痛むの」
そう言って自分の心臓を指差す。
留三郎は伊作の言っていることが何のことか最初理解できなかったが、心臓を刺されて気づいた。
(そうか、こいつは心が痛んでたんだ。こんなにも)
この痛みは、あいつの、心の痛み。
「わかってくれた?」
さっきまでの真っ黒い微笑みは何処へやら、そこにはいつものように困った顔をして治療してくれる伊作がいた。
「ああ、わかったよ・・・。ごめんな」
「ううん、わかってくれたらいいんだ。もう二度と喧嘩なんてしないでね」
指切りしよう、と伊作が小指を近づけてきた。
相変わらずこういうところは子供くさい。
「ああ、約束する」
伊作の小指に自分の小指を絡めて、留三郎は二度と伊作を心配させないようにしよう、と心から誓った。




「とーめーさーんー。なんだいーその怪我は?」
「えええ、えっとですね伊作さん・・・。その・・・文次郎が悪いんだ!俺は何も悪くねぇ!!」
「はいはい、どっかの親善大使みたいなこと言わないのー。喧嘩したんだよね?ね?」
「・・・・しました」
「じゃあ今度はこの新薬いってみようかー」
「うああああああああ!すみませんでしたああああああああああ!!」

2009.07.20

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