傲慢天然俺様KY自分勝手王様王子!

「明日もダメなの?じゃあ、来週の日曜は?」
「仕事だな」
「うーん、再来週…?」
「出張だ」
「じゃ、その次!」
「ゴルフに誘われている」
「え、ちょ…!だったら、いつ会えるのよ!?」
「しらん」
「しらんってアンタねぇ…。わたしとなんか会う気がしないっていうわけ?ふーん…、わかった。もういいよ。そんなに仕事が好きなら仕事と結婚しちゃえ!このばかざま!!」

春の日差しの穏やかな休日。
彼氏の多忙さについに頭がきて、一方的に電話を切ってやった。
きっと彼からは折り返しの電話が来るのは必至だから、携帯の電源はすぐさまOFF。
ついでに家の電話もコンセントを抜いて、ハイ完璧。
我ながら大人げないとも思うけど、もうかれこれ二ヶ月会ってないのにこんな仕打ち、私たち付き合ってるんだっけか?
私と仕事どっちが大事なの、とは流石に聞かないにしても、わたしの彼氏(?)風間千景は、ただのマヌケなお坊っちゃんじゃなかったらしい。
出会った時はフリーター貴族なのかと思ってたのに…こんなにも、週末もスケジュールが詰まっているような、忙しい人だったなんて…知らなかった。
…何だか風間が遠くに感じて、悔しいやらさみしいやら。

「はぁ…」

今ごろ、怒ってるかな。
あの王様は。
話の途中で勝手にキレて、一方的に電話を切ったりして、わたしって何て感じの悪い女なんだろう。
それとも、もう何も思わないのかな…。
そもそも、好きになったのも私からだし、風間から好きとか言われた覚えがないし。

「それでも会いたいよ…ばか」

俺様を象徴するようなゴールドの髪を撫でまわしたい。
低くて少し掠れた、扇情的な声で囁かれたい。
スレンダーだけれど力強い身体に抱き締められたい。
わたしばっかり風間を好きで、ホント、嫌になる。
…今までのことは全部、王様の遊びだったのだろうか。
それともわたしの都合のいい妄想?
それが一番当たってるかも。
だって、誰だってあの美尻を眺めたり、あの形のいい唇にキスされたいもんね。

「はあ」

ため息をばかりが漏れる。
多分わたしはだんだんと空気が抜けていって、おばあちゃんみたいにしぼんでしまうんだ。
はぁ…。

ピンポーン
と家のインターホンが前触れもなく鳴ったから、風間じゃなかろうなとびくびくしながら出てみたら、友だちの千だった。
ちょっとがっかり…なんてしていない決して。

「生きてたのね、name!携帯も家の電話も出なかったから心配しちゃった」
「ごめん…」
「ううん、来てみてよかった。それより、これからすぐ出掛けられたりする?」
「う、うん?大丈夫だけど…どうしたの」
「今日合コンがあるんだけど、人数が足りなくて。あ、いるだけでいいの!nameには風間さんがいるんだし」

合コンかぁ…。
実を言うと、わたしは合コンというものに一度も参加したことがなかった。
合コンに行くなんて決めた日には、どこからともなく風間が現れて邪魔されるか拉致されるかのどちらかだったから。
でも今は──…。

「…風間とは、そのうち別れるだろうから。いいよ、行く」
「えっ!?」
「ちょっと待ってて、荷物取ってくる」
「name……?」

止めてくれる風間はもういない。
…涙なんか出るな。

自分を美人だとか、いい女だとか思っているわけじゃないけれど…。
見た目だけは最高に王子な風間で目が肥えているのか、他の男の人を見ても何の感慨も起こらない。
微かに嫌悪感さえ覚える。

「nameちゃん?」

だから声をかけられても、しばらくぼーっとしていた。

「ねぇ、」
「あ、えっと、はい?」
「大丈夫?具合悪いなら、先帰る?送っていくよ」
「大丈夫、です。考え事してただけなので…」

主にKY俺様男の考え事をね。
だからだろうか。

「その考え事っていうのは悩み事かな?僕でよければ相談に乗るよ。ただ…、ここは人が多いから、こっそりここから抜け出しちゃおっか」
「へ……?」

はじめの頃から隣に座ってきた茶髪の男が、何とも訳の分からない事を言ってくる。
腕を掴まれて、咄嗟に振り払おうとしたけれど、お酒が入っているせいか、身体に力が入らない。
あろうことか、立った足も一歩進めばフラフラで、男にしがみつく形になってしまった。

「…大胆な子は嫌いじゃないよ」

流石に鈍感なわたしでも分かる。
これはちょっと、いや、かなりヤバくないか?
助けてせーん…!って、うわぁ楽しそう。
両脇に座る男と肩なんか組んでる。
わたしも風間となんか付き合わずに合コン行ってたら、合コンマスターになれたのかな。
でもどうだろ。
今、半ばわたしを引きずるようにして宴会場を出るこういう変な男にやっぱり捕まっちゃうのかな。
そんなのは…。

「いや…っ…」
「酔ってるのかな?平気だよ、今タクシー呼ぶから」
「そうじゃ、なくて…!」

風間以外に触られたくない。
風間以外と話したくない。
助けてよ、

「ばかざまぁ…っ!」
「…本当に、無様極まりないな貴様は」

それは店を出た時の事だった。
あまりにはっきりとした幻聴に、息が止まりそうになる。

「朝も思ったが、誰がバカだ。人の話もろくに聞かず、音信不通になる挙げ句、変な男に捕まる方が余程バカというものだろう」

この声。
この、憎たらしい口上。

「か、ざまっ…!」

ホンモノだった。
なんて。
ずるい登場。
時代劇か、戦隊モノか何かか。

「千とかいう女から連絡を受けて来てみれば…誰が別れるなどと言った?勘違いも甚だしいぞ」
「なっ、誰だよ、お前」
「ふん。お前のような薄汚いゴミ虫に名乗る名はない。その女は俺の嫁だ。はやくこの汚れた手を離せ」
「イっ…!?」
「…まぁ、骨の一本や二本折っておいた方が良いかもしれん。二度とこいつに触れられないようにな」

風間は笑っていた。
でも、赤い瞳と男の手を掴む握力は確かに怒りに満ちていた。

「ぎゃっ!」

男がわたしの腕を離す。
わたしは慌てて、風間に近寄った。

「風間!もう大丈夫だから、離してあげて!ホントに折れちゃう!」

風間はやると言ったら絶対にやる男だ。
冗談みたいな性格をしているくせに誰よりも冗談が通じない。

「こんな奴をかばうのか?なるほど俺が助けてやったのは余計な事だったわけか」
「そうじゃない!わたしにはあんたしかいないって、知ってるクセにっ!」

春と言っても、夜はまだ肌寒い。
風間の真っ黒なコートに顔を埋めれば、たちまちだいすきな匂いがして今度はため息でなく、涙が溢れてくる。

「name」

名前を呼ばれ顔を上げると、目を閉じた風間の端整な顔に一瞬本気で見とれた。
抱き付くな、とか?
そんなこと言われたって無理。

「俺と会えなくてさみしかったか」
「っ…!あ、当たり前でしょ」
「…ならば、お前は一生俺の側にいろ」

風間が開眼する。
深い赤に吸い込まれて…思考が停止する。

「はい…?」
「結婚しろと言っている」
「…やだ…」
「なっ…」
「すきって言ってくれなきゃ…、やだ」

風間が笑う。
今度はさっきとは異なり、本当に楽しそうに笑うので、つられてこっちまで笑ってしまった。

「…すきだ、name」

…わたしもです。
わたしだけの、傲慢天然俺様KY自分勝手王様王子さま…!


fin.
(指輪はもちろんティファニーで)


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