僕は甘いコーヒーが好きだ

恋は盲目、とはよくいったもので。
わたしは、自分の主観を差し引いたとしても、わたしの彼氏は極上だと思っている。

「どうしたの、nameちゃん。僕の顔に、何かついてる?」

だいいち。
この長身細身の男──名を沖田総司という──に惚れない女の子なんているのだろうか。
男性のくせにさらさらな茶色の髪。
スマートだけれどしっかりと引き締まった体躯。
目の当たりにすると本当にくらくらする色気のある、声に微笑。
性格は…意地悪、とても意地悪なのだけれど、たまーに優しいところもあってそれはそれでドキッとして、でもやっぱり意地悪で。
意地悪は彼の愛情表現なのだと、最近わかるようになってきた。
だって、本当にわたしが嫌がることは絶対にしないから。
そういうところが抜け目ないせいでわたしはどんどん総司にハマってしまう。

「ねぇってば。…ぼーっとしてるとキスしちゃうよ?」

総司の顔をぼんやりと見つめながら考え事を続けていると、拗ねたような顔が鼻の先まで近付いてきた。
驚いて、下を向く。

「わ、ごめ…っ」
「何考えてたの」
「何も…っていうか、近い…っ…」
「…ねぇ、君いまどんな顔してるかわかる?すっごく、いやらしい顔してるよ。…やっぱり、していい?キス」
「え、や、わ、わたし!コーヒーおかわり持ってくるね!」

キスははじめてではないのに、何だか今日は緊張して、わたしは自分と総司のマグカップを持つと部屋を出た。
……まだ顔が熱い。
付き合ってきてわかったことだけれど、総司は意外とスキンシップが好きだ。
外でも家でも、すぐ人に触れて、心臓をときめきで壊そうとする。
別に…総司に触られるのは嫌じゃないけれど…恥ずかしさに勝てない最近。
恋は盲目、なんだから。
もう少し冷静にならなきゃ…。

「ごめんね、遅くなって」

コーヒーを淹れるのに、やたらと時間がかかってしまった。
慌てて総司の待つ部屋へ戻れば…。

「いいよ、nameちゃんがどれだけ僕の事を好きか、わかったから」
「へ?」

わたしのベッドの上に、寝転がる総司。
その手にあるのは、

「ちょ、ちょっと!」

ア ル バ ムだ。
ただ、アレは普通のアルバムとは少し違う。

「2月14日。総司にチョコレートを渡した。来年はわたしがチョコレートになろうかな…。あぁ、このチョコね。とっても美味しかったなぁ」
「音読しないで!」

写真ひとつひとつに愛のコメント付きなのだ。
自分意外誰も見ないことをいいことに、そうとうヤバイことまで書いている。
中にはポエム調のものまで。
これだけは絶対死守!

「お願い、返してっ!」
「あぁ、総司。どうして貴方は総司なの…」
「きゃー!?!」

格闘すること数分。

ベッドの上でわたしは半べそをかいていた。
恐るべし、恋は盲目。

「大丈夫なのに。土方さんの気持ちの悪い俳句に比べたら可愛いもんだよ」
「そういう問題じゃないの!」

まわりにはどう思われても構わないけれど、総司には、わたしが総司にベタぼれゾッコンラブなのを気付かれたくなかった。
だってこんなの、一生ネタにされるに決まってる!
すっかりご満悦な総司を睨むと、ゆっくりと左手を取られた。

「ごめんね。
これあげるから許して」

そして、いつにもまして穏やかな声と共に、わたしは左手に違和感を覚えた。

「……?」

ナニコレ。

「7号でぴったりだったね。結婚しよnameちゃん」

指輪だった。
大きくも小さくもないダイヤが窓からの光で七色に輝く。
結婚しよって、そんな簡単に…。

「イヤ?」
「イヤなわけ…」
「ないよね。愛してるよ、nameちゃん」

あ、でも。
涙でぐずぐずになったわたしの顔に総司はキスを落としながら、口元を三日月型にほころばせた。

「僕、苦いコーヒーより甘いコーヒーが好きなんだ」
「え、そうなの」
「どのくらい甘いのがいいかっていうと…そうだな。君くらいのがいいな。…よろしくね、可愛い奥さん」

恋は盲目。
それはわたしにとことん甘い総司も同じなのかも。



fin.
(何が可愛い奥さんだ…!)


back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -