お酒は、ほろ酔い程度に飲みましょう。
指先で燃え尽きる
正月に近づいてくると、もう裸足では廊下を歩けなくなってくる。
それでもたまには、何も履いていない状態で出歩かなくてはならない時もあるわけで。
いま、ちょうど、冷たい木の板の上を慎重に歩いているところだった。
何故、慎重になっているのかといえば──。
「ななし、ちょっと茶ァ一杯もらえるか。新八が酔っぱらっちまってさ」
と、ついさっき慌てた様子の原田さんに言われたからだ。
手にしたお盆の上には温めのお茶が並々と注いである。
「だあっ!離せぇ、へいすけぇっ!」
永倉さんがいる部屋の前で足を止めると、障子も襖も破れてしまいそうな罵声が聞こえた。
びくびくしながら、障子を少し、開けてみる。
「ちょっ、新八っつぁん!!あんまりうるせーと、他の隊士たちが集まって来ちゃうだろ!そしたら絶っ対ぇ、土方さんにどやされるぜ!」
「うるせぇのはお前だろうがぁ!?耳元で怒鳴るんじゃねぇよ〜…!」
中を見て、思わず目をそらしたくなった。
大の大人が抱き合って口喧嘩している。
いや、抱き合ってるわけではないのか。
平助くんが、暴れる永倉さんを羽交い締めにしている。
「ねぇ。もういっそのこと新八さん、すまきにするか斬っちゃえばいいんじゃない?」
部屋の柱に寄りかかってそう発言したのは沖田さん。
目が本気で、お前の冗談は冗談に聞こえん、と沖田さんを戒めたのは斎藤さんだった。
…幹部のひとたちが勢揃い。
わたしは、みんな仲間思いだな、と苦笑してしまった。
すると、中からいつもの、ひとを馬鹿にしたような声が聞こえてくる。
「いつまでそんなところに突っ立ってるのさ。早く入りなよ。見つかると面倒だから」
息を飲んでから部屋に入ると辛いようなお酒の香りが鼻の奥まで入り込んできた。
途端にむせそうになる。
「お。使い走りさせて悪かったな」
胡座をかいて、永倉さんを諭していた原田さんがこちらを向いた。
本当に安心したような顔が可愛らしくて、顔がにやけそうになった。
「はい…あの、お茶です…」
「おう」
もう温かくない湯飲みを差し出すと、大きな手のひらがそれを掴む。
そしてそのまま、そのお茶は
永倉さんの顔面に、ぶちまけられた。
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