しれば迷ひしなければ迷はぬ恋の道


新選組の鬼副長は、どんな気持ちでこの句を詠んだのだろうか。

いつぞやか、この句のことをバカにしたことがあるが、いまならその気持ちが、わかる気がするんだ。



「しれば」ナントカ



もう暦では秋だというのに京は一段と暑さを増していた。

涼しさを求めて、廊下に寝転んだのだが、どうにも暑い。

じわじわと、下からも上からも熱気に押さえつけられているような感じがする。


「…きたさ…」


目を閉じていると、ぱたぱたと誰かが廊下を走ってくるのがわかった。


「…おきたさん!」


その誰か、は頭の横で立ち止まった。

心臓が、奇妙なリズムを刻みはじめる。


「大丈夫ですか沖田さん!」


この声が夢じゃないことを祈りながら目を開けると、そこにはやはり、僕を悩ます少女がいた。


「大丈夫だよ。あまりにも暑かったから、廊下で寝れば涼しいかなって思っただけ」


よっこらしょ、と自分でも年寄り臭いと感じながらも起き上がる。

少女は、いまにも泣きそうな顔をしていた。


「よかったです…。倒れてしまったのかと思いました」


土方さんといい、この子といい、ここにいる人間は随分と心配性が多い。

しかし、どこにも行くあてのない自分を気遣ってくれるのは心底嬉しかった。

それだからか。


「君に心配されるようじゃ僕も舐められたもんだよね」


こうやって悪態をついて、もっとかまって欲しいと甘えてしまう。


「べ、別に舐めてなんかいません!」

「大声出さないでよ。余計に暑くなる」


暑くなるのは、決して京の、ひとを蒸し殺すような気候のせいだけではない。

半分は彼女のせいだ。

何しろ彼女は、血なまぐさい己とは対称的に、女の匂いを撒き散らしているのだから。

左之さんや新八さんとふたりきりにさせたくない平助の気持ちも、わからなくない。


「あの、沖田さん」

「ん〜?」

「こんなことは押し付けがましいかと思いますが、あまり暑いようでしたら水ようかんでも切りましょうか。先日の残りがあるはずですから」


水ようかんか。

甘いものは嫌いじゃない。


「じゃあ、あとでもらおうかな」

「はい、お部屋にお持ちしますね」


ななしちゃんが隣に腰を下ろす。

僕は、咄嗟にそっぽを向いた。


 





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