「なぁ、ななし。左之よりぜってぇ、俺の方がいいと思うぜ?」
「何言ってんだよ、新八。ななしは俺の方がいいよな?」
どっちを選べばいいのやら。
Which do you like better?
「もー、いい加減にしなよ。ふたりとも」
もうすぐ太陽が一番上にのぼる頃、わたしは左之さんと新八さんと三人で、町に来ていた。
先程の会話を聞いたひとは、「ふたりから求愛されてる?」なんて思ったかもしれないけれど、そんなに甘くないのが現実。
「だってよう。左之が聞き分けがねぇから」
「聞き分けがねぇのはそっちだろ。俺は折れねぇぞ」
「もうこりゃななしが決めるしかねぇよぉ」
大分前から大の大人がふたりして争っている。
わたしはため息を吐かずにはいられなかった。
「だからどっちでもいいってば…」
「どっちでもいいぃ?そんなこと言うなよ!これは大事な問題だぜ」
「新八の言う通りだ。どっちか必ず選べ」
こういう時だけ、息ぴったりだし。
ふたりが、何を騒いでいるのかというと、俺の方がいい男だから俺についてこい、というわけじゃなくて、ただ、昼飯をどこで食べるか、でもめているのだった。
「こっちの店のがうまいから!本当!」
「新八の味覚はイカれてっからダメだ。こっちにしよう」
「左之だって、酒の味しかわかんねぇくせに!」
「何だと?」
ラチがあかない。
平助がいてくれたら、と思ったが、今日は用事があって来れなかった。
「じゃあ、わたしが決めるよ…」
ふたりを制しながら、隣同士の店を見比べる。
嗚呼。
これじゃ、団栗の背くらべ。
心の底からどっちでもいい。
「うーん…、やっぱりこっちかな」
わたしが選んだのは、左之さんがおすすめした方だった。
途端に、双方から声がする。
「流石ななし。よくわかってんな」
「な、なん、何でだよ!何でいつも、みんな左之を選ぶんだぁぁ!」
いえ、たまたまです。
「お前がうるせぇからじゃねーの」
「なぁっ?!」
「そーじゃなくて。ただ左之さんの店の方がすいてるから…」
ふたりはもはや、次の争いをはじめ、聞いていなかった。
fin.
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