貴方のおやすみは、絶対的。
おやすみU
〜土方歳三の場合〜
新選組の屯所に来てから四ヶ月がたとうとしていた。
季節の変わり目のせいか、わたしは、屯所内で一番はやく風邪を引いた。
ちまたでも、少しくらいは風邪も流行っているらしいが、外に出ていないのに、どうして風邪を引くのだろうか。
「は、くしゅんっ」
ここに来てからというもの、新選組の皆さんにはお世話をかけっぱなしだ。
仮にも、軟禁されている身だというのに。
わたしは、今年の四月に新入隊士として新選組に入った兄と会うためにここに来た。
しかし兄は、現在行方不明になっており、このまま帰るわけにもいかず、仕方なくここに置いてもらっているのだった。
屯所は女人禁制のため、食事や手洗い、湯浴みの時くらいしか部屋をでることは許されない。
でも、薬をもらったり濡れたてぬぐいを用意してもらっているんだし、文句は言えないよね…。
「俺だ。入るぞ」
天井をそろそろ見飽きていると、廊下から聞き覚えのある声がした。
「は、はい。どうぞっ」
「具合はどうだ?」
わたしは上半身を起こした。
別に病人なのだから寝ていればいいのかもしれないが、このひとを前にしたら寝ていられるひとは少ないだろう。
新選組副長、土方歳三━━。
「大分よくなりました!石田散薬が効いたみたいです」
「そんな薬しかなくて悪かったな。平助の野郎が、ななしが頭打って倒れたとか言うから、てっきり打ち身か何かかと思っちまった」
え、石田散薬って、風邪薬じゃないんだ。
そんな感想を持ったことは土方さんには言わないことにした。
「症状は何だ?咳か?熱は、どうだ?」
土方さんが、ずり落ちたてぬぐいを拾いながら、わたしのおでこに手のひらを当てた。
その心配してくれる姿が、何だかお母さんみたいで、わたしは笑ってしまった。
「…何で笑うんだよ」
「だって…、な、何だかお母さんみたいで…!」
「母親だぁ?俺ァ、男だぞ。でもまぁ、六人兄弟の末っ子だったからな。よく病人の世話はしてた」
ふ、と土方さんも笑った。
笑うと、色白で髪が長いからか、とても可愛らしい。
「土方さんも、笑うんですね…」
だから、無意識にそんなことを言ってしまったのだ。
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