玄関を開けたら、多分バイト帰りであろう彼女が靴も脱がずに寝そべっていた。
これがあの、据え膳ってやつか?



lost boy



第一発見者が俺、原田左之助だったからよかったものの。
どうやったらそんな風になるのか、道路で干からびた蛙のようなすんばらしい格好に苦笑するしかない。
眺めているだけ、というのも結構乙だが、いい加減寒いのでドアを閉めてやる。

「おいななし、起きろ。こんなトコで寝たら風邪引くぞ」

手始めに無防備な彼女の頬っぺたをつねってみる。
文句なしの肌触りに、胃の辺りが締め付けられる感覚に襲われた。
もう少し触っていれば、疲れも吹っ飛びそうな俺に対し、ななしはさらに寝息を立てただけ。

…相当疲れてんだな。

ネクタイを緩めながら床に座って、そっと頭を撫でてやると、ぴくりと瞼が動いた。

「お。起きるか…?」
「ん…」

でもそれだけで。

またすうすうと規則正しい寝息が聞こえてくる。

こりゃ、起きねぇだろ。

そう判断すると靴を脱がして脆そうな体を抱きかかえる。
刹那、ふわりと女特有の香気が漂って、背中が粟立った。
このまま、キスしちまってもいいよな…?
据え膳食わぬは末代までの男の恥だし…。

「…さ、のさん…すき…」

そのほんのりと赤い唇に口付けようとして、固まる。
寝言だったようだが、そのしあわせそうな声音と寝顔は、俺の理性を取り戻すのには充分だった。

ちくしょう。こんなのアリかよ。

その日はそのまま、何もせずに、俺のベッドに寝かせてやった。


俺の中のオスは

一体どこへ行ってしまったのだろうか。



fin.


  





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