おはよう。おやすみ。

貴方と交わす、そんな言葉さえ愛しい。愛くるしい。



おやすみ
〜原田左之助の場合〜



「では、皆さん。お先に失礼します」


新選組の屯所に来てから、三ヶ月がたった。

今年の四月に新入隊士になった兄の様子を見に、はるばる伊予からやってきたものの、現在兄は行方不明ということで、ここに身を置いてもらえることになった。

兄は隊規違反を犯して、粛清されたという噂もあるが。


置いてもらえることになったとはいえ、この状況に落ち着くまで三ヶ月かかり、加えて現在進行形で軟禁状態だ。

不自由はないけれど、たまには外に出たくなる時だってある。

他の隊士に、女がいるということが知られてはいけないとわかっているけれど…。

その点、わたしと同じく、女性でありながらここにいる千鶴というひとは男装をしていて、剣術の心構えがあるためわたしより制限が少ない。

少しばかり、羨ましかった。


「待ってくれ、俺も部屋に戻る」


障子を閉めようとしたら、向こう側から誰かの腕がはさまった。


「わっ、ごめんなさい!?」

「メシ食ったら眠くなっちまった。一緒に部屋行こうぜ」


誰かと思ったら、同郷である原田さんだった。


「わたしは構いませんけどよかったんですか?千鶴ちゃんとお話中みたいでしたけど」

「あぁ。昼間、巡察が一緒で千鶴がかんざし見てたんだけど、お前に必要あんのかって言ったら怒っちまって。謝ってたところだ」


原田さんは何でだろうな、と首をかしげているが、千鶴ちゃんだって女の子なんだから…。

彼女もわたしもそういうものには目がない年ごろだし。


「許してもらえました?」

「わびに、そのかんざしを買ってやるって約束したよ」


暗くてひんやりとする廊下を原田さんと並んで歩く。

図々しくも、わたしも新しいかんざしが欲しいな、などと考えてしまった。

買いに行けるわけないのに。


「…ここの暮らしにはもう慣れたか」


沈黙が流れる前に、原田さんが言った。

こんな風に、自然を装って気をつかってくれるこのひとは優しいひとなんだと思う。


「はい。皆さん本当によくしてくださって…」

「ははっ」


いきなり、原田さんが笑う。

わたし、何か変なこと言ったかな?


「千鶴も来たばっかの時、んなこと言ってたな。こんな男所帯で本当はむさ苦しいだけだろーに、偉いな」


 





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