久しぶりに左之と平助と飲み明かして、島原から朝帰りした日のことだ。
屯所に戻ると、ななしの機嫌がすこぶる悪くなっていた。
俺、何かしたっけか。
ふうふ喧嘩は犬も喰わねぇ
「ななし…なぁに怒ってんだよ?」
「…別に怒ってなんかいません」
「いや絶対怒ってるだろ」
「怒っている理由が分からないならいいじゃないですか。それより早く巡察に行かれたらどうです?」
いつもよりあからさまにそっけないななしは、ふいと顔を横に背けた。
それなりに女とは付き合ってきたつもりだったし、女が喜ぶ事は知っているつもりだったが。
それはつもりだけだったのだと、ななしと恋仲になってからすごく実感する。
俺が言う女、というのは郭の姉ちゃんたちであって、ななしとは性質が異なる。
つまるところ、事情で新選組みたいな男所帯に身を置いているってだけで、興味関心はそこら辺の町娘と同じ年頃の娘さんなのだ。
しっかし…どうしたものか。
ななしが怒っている理由がわからない。
島原に行ったからか?
でも姉ちゃんたちは呼んでねぇし、怒ることじゃあねぇよな。
酒くさいとかか?
そんなの、毎度のことの気がするし…。
うーん…。
女心は剣術よりも難しい。
新選組二番組組長の名が聞いて呆れるが、本当のことなので仕方がない。
左之だったら何とかうまいこと言って機嫌を直せるんだろうけどなぁ…。
「ななし」
「…何ですか、永倉さん。触らないでください」
「ごめん」
口では無理!と判断した俺はななしの棒のように細っちい腕を引くと逃げないように強く抱き締めた。
華奢な体は、今にも壊れそうだ。
「ごめん」
俺、馬鹿だからさ。
変な事をしちまっても、自分じゃ気付かないんだ。
だから言いたい事があったら素直に言ってくれ。
「…っ…もうっ!」
どん、とななしの手が俺の胸を叩く。
あーあ。泣かせちまった…。
「ごめんな」
「しんぱ、ちさ…っ」
結い紐を指の腹でなぞってから、艶やかな漆黒の髪を撫でる。
可愛いな、などと不謹慎なことを思う。
「島原に…っ、行かないでとは言いません。ただ…!」
やっぱりな。
知らなきゃ、島原っていうだけで姉ちゃんたちと遊ぶだけのところだと思うよなぁ。
心配、かけちまってたか。
「分かった。皆まで言うな」
お前が望むなら、俺はもう付き合いでもいかねーよ。
だって。
お前を
最後の女にしたいから。
fin.
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