「馬鹿だな、ななしは」
左之さんが大きなため息を吐く。
馬鹿、という言葉に少し傷ついて顔をあげれば、彼の厚い胸板に引き寄せられていた。
「俺がお前がいれば、ほかはどうだっていいんだよ」
どくんどくん、と少し早めの鼓動が聞こえる。
どちらのものかわからないけれど、左之さんのものだったらいいのに、と思う。
「いくら俺が美人だと思う女がいたとしても、それは俺の惚れた女じゃねぇ。俺が心底惚れてるのは、お前なんだよななし。言ってる意味わかるか?」
子どもをあやす母親のように左之さんが背中を撫でてくれる。
それが本当に優しくて、ついに涙がこぼれ落ちた。
「な、泣くなよ?!」
「だって…わたし、こんなちんちくりんなのに…。左之さんが格好よすぎるからいけないんです〜!」
涙は止まることを知らずにポロポロポロポロ。
迷惑だし汚いし、最低な女になってしまった。
「でも、ひっ、嫌いにならないでっ、くださっ、いっ」
わたしのイチバンの心配事はそれ。
顔が涙か鼻水かヨダレかでまみれていたので、左之さんから離れようとしたが、逆にきつく抱き締められ、胸を汚すことになってしまった。
「左之さ…よごれっ、ちゃいますっ!」
「ったく…。そんなことで悩んでたのかよ。あのなぁ、俺がいつも美人だと思うのも、可愛いと思うのも、お前なんだよ。嫌いになんか、誰がなるか」
「う、嘘ばっかりぃぃぃ」
自分で言っておいて、何を言っているかわからなくなってきた。
「嘘じゃねぇって。暫く、泣いとけ」
左之さんは苦笑しながら、わたしが泣き止むまでずっと愛の言葉を紡いでくれた。
fin.
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