静かに眠りたい夜は、貴方の声を聞くの。



おやすみU
〜斎藤一の場合〜



「ななし、悪いが斎藤を呼んできてくれるか」


新選組の屯所に来てから五ヶ月がたとうとしていた。

夕食の片付けが終わると、土方さんに声をかけられた。


「構いませんよ。斎藤さんはお部屋でしょうか」

「どうだろうな?部屋にいないようなら道場の方だろう」

「わかりました」


ぺこっ、とすばやく頭を下げると、逃げるように土方さんの前から去った。

ちょうど一ヶ月くらい前に風邪の看病をしてもらってから真っ直ぐ顔を見ることができなくなってしまったのだ。


廊下に出ると、いつもひんやりしている床が、さらに冷たくなっていた。

身震いしつつ、先に道場の方にまわる。


…新選組のひとの中で一緒にいて一番落ち着くのって、斎藤さんなんだよね。


ため息をひとつ。

他のひとは、色々な意味で落ち着けないのだ。


それでもここは、いい所だった。

外に出られないなど制約はあるにしろ、女、しかも隊規違反を犯した者の妹を半年近く殺さずに、置いてくれるなんて、感謝してもしきれない。


角を曲がると、道場の明かりが見えた。


こっちに、いるかな?


わたしは中を覗いた。


「あ、斎藤さん…!」


彼は刀を手にしていた。

その立ち姿には、自然と威厳があった。

わたしは、口をつぐんだ。


斎藤さんは俵のようなものと見つめあって、動かない。


…大丈夫かな。


しかし、以前沖田さんが、斎藤さんはすごい剣豪だと言っていた通り、まばたきをする間もなく、その刀が俵を斬った。

俵は動かず、刀だけ、静かに鞘に戻る。


「……誰だ?」


背中越しに斎藤さんが言う。

何故いつも、見破られてしまうのだろう。

小さな段差をまたいで、道場内に足を踏み入れる。


「わ、わたしですっ。ななしです!」


はじめて話す訳でもないのに声が裏返ってしまった。


「あぁ、アンタか」


斎藤さんがこちらに向くと同時に、斬られた俵が床にずり落ちた。

それを仰視せずにはいられなかった。


じ、時間差…。


暫し、自分の用事を忘れた。







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