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「別に、今すぐ辞めろとは言わない。仕事と家を見つけてからでいい。決まったらできるだけ早く教えてくれ。俺も次を探さなきゃいけない」
すでに決定事項のように、社長は一方的に話を進めていく。
私は眉を寄せて、首を傾げる。
「次?」
「次のバイトだよ」
「……嫌です、って言ったら?」
私はぎゅっと手を握り締めて、視線を社長に向ける。
「辞めたくないです」
言いながら、馬鹿かと思う。
別に、こだわる仕事じゃない。
今までだって、辞めろと言われたら素直に辞めてきた。
ここのバイトが私でなくてもいいように、私もこの仕事じゃなくてもいい。
次を探せば。
それだけの話だ。
なのに。
「給料なら払う。猶予もやると言ってる。何が不満なんだ」
返ってきた社長の言葉はそっけなく、やっと動いた表情は微かに不機嫌な色を浮かべている。
腹が立つ。
私は立ち上がった。
「不満はありません。給料を支払ってくれるなら、明日までには出ていきます。お世話になりました」
私もいつもどおりの口調に戻って、一礼して部屋を出る。
社長がいらないと言うのなら、ここにいる意味はひとつもない。
捨てられるのは慣れている。
社長は追ってこなかった。
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