18
立ち上がって背を向け、だるそうに髪をかきあげる。
それからもう一度溜息をつき、社長はようやく重い口を開いた。
「率直に言うけど、辞めてくんない?」
出てきたのは、予想もしない言葉。
私はぽかんと口を開ける。
「近づきすぎだ、あんたと俺。ふつう、バイトと一緒に生活したり、キスしたりしない」
振り返った社長の目は、冗談を言っている様子ではなく、ごく真面目だった。
「……仕事を辞めろって、そういうことですか」
「俺が欲しかったのはただの事務員だ。恋人じゃない」
「じゃあただの事務員として扱ってください」
「今の状態で?無理だろ」
社長は鼻で笑う。いつもどおり。
それで、一気に現実感が増してくる。
辞めろ?
なんで今そんなことを言う。
近づきすぎだなんて、そんなこと随分前からわかっていた。
それで納得したから、合鍵までくれたんじゃなかったのか、この人は。
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