15


とりあえず、両親に会わないという考えは崩さないことにした。
マスターの言葉に揺れたけれど、社長の顔を見たらどうでもよくなった。
悔しいけど、やっぱり私の場所はここで十分なのだ。
ここで、社長のもとで働いていたい。
そしていつか金持ちになって、彼らの顔を札束で叩けるようにでもなれば、会ってもいいかもしれない。

美味しいものを食べて楽しく遊んでいるうちに、ふとそんな能天気なことを思った。
私らしくない。
だけど、少し肩の荷が下りて楽になった。

「どこか行きたいとこは?」

夕食はイタリアン。
その後、小洒落たバー入り、社長のお酒に付き合って、店を出たのが零時前だった。

「もう充分です。夕食まで奢ってもらえたし」

「帰ってあんたの飯食うよりはいいだろ」

「失礼な」

私が睨むと、社長は口の端で笑みを浮かべただけで、黙って私の手を取った。
酔っているにしては視線が定まっている。
おかしい。
柄にもなく動揺してしまう。

「行きたいとこないなら、ホテルでも行くか」

「なんですか。そういう目的だったんですか」

「まぁね」

否定もせずに社長は私の手を引いていく。
やっぱり今日の社長は変だ。
眉間に皺を寄せて彼の表情を窺ったが、相変わらず何を考えているのかわからなかった。
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