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たぶんこれは、デートと呼ばれるものだ。
後で高額の請求をふっかけられるんじゃないかと疑うくらい、社長がなんでも言うことを聞いてくれる。
リベンジの水族館。
水槽に張り付く私の横で、社長は気だるげに横切っていく魚を眺めている。
にぎやかな家族連れを睨みもせず。
イチャつくカップルに文句も言わず。
「ペンギンはまだですかね」
「もうすぐじゃないの。焦らなくても逃げねぇよ」
私をけなすことすらせず、のんびり歩を進める。
この人、熱でもあるのだろうか。
正直、出かける前は昨日の両親のなんやかんやで乗り気がしなかったのだが、今はそれどころじゃない。
目の前で起こっていることのほうが気になって仕方ない。
「あぁ、ほら、あんたのペンギン」
「え?どこですか?」
「こっち」
社長がすっと私の手を取って引いていく。
自然に。
当たり前のように。
さらに不可解さが増し、私は眉を顰めた。
この男が何の利益もなくデートに連れてきてくれるわけがない。
なんなんだ。
何かしたのか私。
そして、時間をかけて全て見せてもらえたうえ、冗談で頼んでみたペンギンのぬいぐるみまで買ってもらった。
謎は解けぬどころか、一層深まるばかり。
水族館を出て、次はランチに向かった。
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