三十路に突入したばかりの担任は、気さくで、友達感覚でしゃべれる物分かりの良い人だ。
短い髪に、茶色のフレームの眼鏡。
童顔を隠したいのか少し顎髭を生やしているが、これがまた似合わない。

「小谷、俺は別に独り言をしゃべってるわけじゃないんだけど」

ぼうっと髭を見ていると顔を覗き込まれて、私は思わず身を引く。

「聞いてます」

「じゃあ返事してよ。せんせいさびしい」

「きもちわるい」

「おまえはそういうことだけははっきり言うよな」

吉田が大げさに肩を落とすので、私はにこりとひとつ笑みを作ってみせた。

「……で、仕事は忙しいのか」

頬杖をつき、吉田が本題に取りかかる。

「まぁ、ぼちぼち」

「学校も来れないくらいか」

「来てますよ、一応」

「単位ぎりぎりでな。おまえ、本当危ないんだって」
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