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「社長、家が欲しいです」
私が言うと、社長は嫌な顔でこちらを一瞥する。
「知るかよ、あんたの家なんて」
「この事務所ください」
「金出せ」
ほら、やっぱり世の中金だ。
そっけない社長の態度に溜息をついて、私はパソコンを開いた。
収入が入るようになった株。
新しく習ったアフィリエイト。
社長と出会って、今までよりずっと簡単に、たくさんお金が稼げるようになった。
だけど、足りない。
いくら稼いでも不安で、もうすぐ卒業して生活が楽になるのがわかっていても、全然足りない気がする。
「家、欲しいな」
ぽつりとつぶやく。
社長はもうこちらを見ようともしない。
心理学者じゃなくてもわかる。
私は安定した居場所が欲しいのだ。
そんな意思表示をすることはただの甘えだとわかっているのに、彼の傍にいると、つい気が緩んでしまう。
彼が無視してくれるとわかっているから。
社長は黙ってコーヒーを口に運ぶ。
私もそれ以上何も言わず、大人しく仕事に取り掛かった。
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