弁論大会というものがある。
大小問わず身の回りの不幸を述べ、尚かつそれを希望へと導くような作文を書けば間違いない。

私はこれが大嫌いで、まともに書いたことがなかった。
だが、国語の教師に頼まれたのか吉田が書けとうるさいので、最後だしいいかと希望に満ち溢れる作文を書くことにした。

将来の夢。
マイホームを建てること。

私に不利益を及ぼす家族のいない、取り立ても来ない、ということを熱弁してやりたかったがそれは控えておいた。
同情されることほど惨めなことはない。

「あんた、なんでいんの」

「仕事です」

「学校行けって言っただろ」

大学から帰ってきた社長が、口を閉ざした私を睨む。
マスターが何を言っているのか、社長もなかなか厳しい。

「……弁論大会ですよ」

「だったらなに」

「クラス代表に選ばれたんですよ」

仕方なく訳を話すと、社長は珍しく吹き出した。

「さすがだな。そりゃネタの宝庫だしな、あんたの人生」

腹が立つが、社長の無神経さはいっそ清々しくて好きだ。

パソコンを閉じて、社長のコーヒーを入れに立つ。
悠々とソファーに足を組んで座る社長にカップを差し出すと、彼はにやにやしながら私を見上げた。
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