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「ありがとうございます」
「は?」
「庇ってくれて、ありがとうございます。助かりました」
私は頭を下げる。
社長は、あからさまに心外だという顔をした。
「俺が他人を庇うような人間に見えるか」
「見えません」
「失礼な女だな」
「社長みたいな性格、生きにくそうだけどうらやましい」
私の言葉に、社長は眉を顰めた。
生きる上での最大の防御。
流れに棹さす、これに尽きる。
上手く立ち回って、上手く逃げて、誰とも深く関わらず、その日暮らしの生活。
でも、社長は反対だ。
社長のような環境があったら、私も彼のように生きられたのだろうか。
「別にあんたがこんな生き方する必要ないだろ。何かあれば俺が言う」
そっけなく、社長が言う。
その背景にきらきらと街のネオンが輝いていて、なんだか泣きたくなった。
独りだった世界が壊れそうだ。
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