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社長、と3回呼んで、彼はやっと足を止めてくれた。
思いっきり不機嫌そうな顔で振り返って、じろりと私を睨みつける。
「あんたなんで来たの」
「あなたが飲んだくれてるから迎えに来いって、マスターに呼ばれたからですよ」
「なんであんなところで働いてたんだよ。なんなんだあの女は」
よほど気にくわなかったらしい。
社長は再びすたすたと歩き出す。
「なんで社長が怒ってるんですか」
「俺はああいう人間が嫌いなんだよ。集団行動ができない奴がそんなに悪いのか。何でも自分と同じスペックで考えて、人の事情も考えずに優しさを押し売りしようとする。それが正義か」
「……あの人と知り合いですか」
「は?なんでだよ」
「妙に詳しいんで」
ああいうタイプはクラスに一人いるだろ、と社長は私の顔も見ずに吐き捨てる。
そのクラスにいた人に、よっぽど煩わしい思いをさせられたのだろうか。
まぁ、そういうタイプじゃなくても、この人は他人に干渉されるのが嫌いなのだろうが。
私は溜息をついて、呆れ半分で笑った。
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