「確かに、私も親の都合で転校ばかりしてました。仕事の都合じゃありません。夜逃げです。祖父母に引き取られた頃には他人と関わる気なんてありませんでしたし、ある程度自分で稼ぐこともしました」

ウーロン茶を一口飲んで、私は淡々と吐き出す。

「私と社長は似てますよ。理由はどうあれ育った環境が似てますから。でも……」

「そういうところ」

「は?」

「そういうところが似てる。自分のことを客観的に話せるところ。人に頼らず自分で稼ごうとする根性。よく似てる」

反論しようとした私の言葉を遮って、マスターが悪意なく笑う。

この話をするのはけっこう思い切りが必要なのに。
なのに、この仕打ち。
結局、マスターの思い通りに話を運ばされていたわけだ。

「帰ります。喋りすぎました」

「まだ何も話してないよ」

「いえ、十分です。社長、帰りますよ」

私が社長を起こそうとすると、マスターがリョウちゃん、と私の呼び止める。

「マキに君が必要なだけじゃない。君にもマキが必要だって言ってるんだよ。君たちが、もう少し大人になるために」

真面目な顔で、マスターは卑怯なことを言う。
大人になんて、私と社長が一番望んでいることだ。

「家族でも友達でも恋人でもいいんだよ。マキをよろしくね」

にっこり微笑まれて、私は肩を落として頷く。
なぜこの人に弱いのかというと、私も社長も可愛がられるのに慣れていないからだ、と気がついた。
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