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「社長、なんで逃げるんですか」
私は社長の後を追いかけていって、ぐいっと袖を引く。
社長はあからさまに嫌そうな顔をして、私の腕を振り払う。
「みすぼらしい真似すんな。そして俺に関わるな」
「は?何の話ですか」
「必死な顔して試食食いあさってんじゃねぇよ。恥ずかしい奴だな」
「なんでですか。食べろって置いてあるんですよあれは」
私の話には耳を傾けず、社長は再び早足で歩き出す。
「ちょっとちょっと、何帰ろうとしてんですか」
「一緒に歩くな。同類だと思われる」
「せっかく会ったんだから手伝って下さいよ。あなたの夕食の材料買ってるんですけど」
「知らん」
本気で嫌がる社長を引っ張って、私は買い物に戻る。
厄介な金持ちだ。
文句を言う社長を黙らせようと、私は試食のパンを一切れつかんで彼の口に詰め込んだ。
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