12
ごはんを食べて、家事をして、お風呂に入って、寝る。
電気は消えない。
音も消えない。
カチャカチャと、社長がパソコンをいじっている。
「何時だと思ってんですか。さっさと帰ってくださいよ」
「ここは俺の事務所だ」
「でも私の寝室です。寝かせてください」
「ここで寝れないなら表へ出ろ」
画面に視線を貼り付けたまま、社長は冷たく吐き捨てる。
ちくしょう、意地でも寝てやる。
ソファーベッドの上で、私は体を丸めて目を閉じる。
社長はあまり家に帰らない。
夜行性だし、大学も適当だし、寝る時間もバラバラ。
私が作らなければ、ごはんもろくに食べない。
真っ白でガリガリなのはそのせいだ。
キーボードを叩く音に眠れず、私は小さく溜息を漏らす。
そもそも眠れないのは、人が傍にいることに慣れていないせい。
それでもここは天国だ。
追ってくる人間もいない。気を遣う相手もいない。
ふいに、キーボードの音が止み、電気が消える。
パソコンの明かりが残る中、再び機械的な音が聞こえてくる。
気を遣ってるんだか、いないんだか。
くすりと笑みが零れ、少し落ち着いて、私は夢の中に墜ちていく。
そうして今日も、私と社長の夜は更けていく。
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