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学校から帰り、祖父母に挨拶をして、一緒に昼食を食べた。
結婚すると告げたとき、反対したのは意外にも祖母だったが、今となっては二人とも社長を気に入ったようで事あるごとに彼を連れて来いと言う。
もちろん両親には言っていない。
言う必要もないと思っている。
社長の両親とは一度だけ会ったが、思っていたより良い人たちだった。
というか、社長に似ていた。
私の育ちのことで反対されるかもしれないと思ったが、特に興味はなさそうだった。
結婚についてすら何も言われなかったらしい。
そういうわけで、あっさりと今日の入籍に至った。
「おい、運転中にぼーっとすんな」
声を掛けられて、我に返ってハンドルを握り直す。
卒業前に社長の命令で教習所に通ってから、免許を取った途端に運転手として使われている。
社長は調子悪そうにお腹を撫で、アルコールの匂いのする息を吐き出した。
「おじいちゃん、お酒強いでしょう」
「二時間で飲む量じゃねぇよ。こんな飲み方してて、体壊したらどうすんだ」
「最近は控えてたんですけどねぇ。一緒に飲んでくれる人ができて、喜んでるんですよ」
そう言うと、社長は照れくさいのかがしがしと頭を掻いた。
家族としての扱いに慣れないらしく、祖父母の前で戸惑っている社長は見ていて面白い。
私が笑うと、横から社長のパンチが飛んできた。
いつのまにかキーにぶらさがっていた安っぽい星砂の小瓶が、ちゃらりと音を立てて揺れた。
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