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「こったにー!」
無駄に明るい声で、呼ばれるはずのない名前を呼ばれて振り返る。
ぶんぶんと手を振って駆けてきたのは、涙で目を真っ赤にした吉田だった。
「卒業おめでとう!まさか、まさか小谷が卒業できるなんて!」
「当たり前じゃないですか。ちゃんと単位計算してましたよ」
「もう先生はうれしいよ!うれしいけどさみしいよ!卒業しても先生のこと忘れないで……」
「一年間ありがとうございましたさようなら」
「ちょ、ひどい!こた……」
一礼して帰ろうと社長のほうへ体を向けたところで、吉田はようやく彼の存在に気がついたように目を瞬かせた。
私の腕の中の花束と、呆れた様子で事の成り行きを見守る若者の姿を見比べる。
「小谷、おともだち?」
純粋な疑問に、私はめんどくさいなと渋い顔をする。
「夫です」
「夫!?」
「どうも、凌がお世話になりました」
社長がわざとらしく深々と頭を下げる。
吉田は今度こそ目をまんまるにして、ぱくぱくと口を開閉させながら私と社長の顔を見比べた。
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