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私は泣きそうになるのを堪えて社長を睨みつけ、ごつんと彼の肩に頭を預けた。
社長はふっと息を吐いて、今までにない優しい手つきで私の頭を撫でる。
「私、何になればいいですか」
気恥ずかしさをごまかすように口を開く。
「バイトですか、正社員ですか、副社長ですか」
「馬鹿じゃねぇの。調子のんなよ」
「じゃあなんですか。友達ですか、恋人ですか、家族ですか」
「……全部」
「調子のってんのはそっちだろ」
思わず敬語を崩して顔を上げる。
目が合うと、社長は表情を和らげた。
「あんたは俺に何になってほしいの」
逆に問い返され、私は返事を見つけられずに口をつぐむ。
何に?
そんなこと考えたこともない。
社長は社長で、私は私で、この位置から動こうなんて、思ったことは。
「……何にも。一緒にいてくれれば、それで」
柄にもなく正直に答えると、社長はにやりと口角を持ち上げた。
「そういうことだ。だから、全部なってやるよ」
偉そうに言い放たれて、私は顔を顰める。
でも、全部か。全部。それもいい。
私が社長の肩に頭を戻すと、それを受け止めるように彼の手が髪を撫でる。
社長がおかえりと確かめるように言い、私は少し笑みを零してただいまと返した。
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