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「あんた馬鹿なの。誰も体売れなんて言ってねぇよ」

社長のぼさぼさの黒髪が顔をくすぐる。

「自分の仕事くらい自分で決めますよ。もう雇い主じゃないんだから、放っといてください」

筋張った真っ白な手が子供のように肩にすがり、背中に響く鼓動は彼らしくもなくどくどくと波打っている。

「自分の体は億単位だって言ったくせに」

「二、三万だってあなたが言ったんじゃないですか」

社長の完全に拗ねた口調に、私は溜息をつく。
これだからマスターは油断ならない。
いくらなんでも話が伝わるのが早すぎだ。

「だいたい俺、まだ給料払ってないから。まだ雇い主だろ」

「じゃあ、今持って帰るんで払ってください」

「……可愛くない」

「何が言いたいんですか」

腕を解き、振り返って社長を睨みつける。
この野郎、いつもどおり居留守なんか使いやがって。
社長は口を尖らせてこちらを睨み返すと、今度は正面からペンギンごと私を抱き寄せた。
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