18


目当ての物はソファーの上に座っていた。
ほっとして駆け寄る。
捨てられたらどうしようかと思っていた。

抱き上げるとまだ新しい匂いがして、妙に鼻の奥がつんとした。
マスターの言うことが本当だとしたら、あの優しさは本物で、社長が買ってくれたこのぬいぐるみだって私が受け取るべきものだ。
腹が立つけど、覚えていたい。
ちゃんと彼がくれたものを、残しておきたい。

私はぎゅっとぬいぐるみを抱き締めて、こみあげてきそうになるものを堪えた。

戻ってきたいなんて思ってない。
帰ってこれるなんて思ってない。
社長に会いたいなんて思ってない。
引き留めてほしいなんて、思ってない。

さっさと奪還して帰ろうと考えていたはずの足が、なかなか動こうとしない。
そして、ふと背後に人の気配を感じたのはその時。
はっとして振り返ろうとした体が、後ろから回された手に捕えられる。

「絶対帰ってくると思った」

自信たっぷりの言葉とは裏腹に、降ってきた声は揺れている。

「……帰ってきてませんよ、忘れ物取りにきただけです」

そっけなく言い放ったつもりの声にも覇気がなく、私は手を振り払うこともできずに立ち竦む。

「離してください、社長」

告げた言葉に抗うように、私を抱き締める腕にぎゅっと力がこもった。
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