16
ペンギンを忘れた。
昼休み、手のひらでころころと星砂の小瓶を転がしていたとき、再び思い出した。
水族館で買ってもらったペンギンのぬいぐるみ。
まだ社長の家にいるだろうか。
「お、星砂だ。沖縄から買ってきたの?」
ふと視界が翳って、私ははっとして顔を上げる。
にこにこ笑っている童顔メガネ。
吉田は私の前の席に腰かけ、にこにこと机に頬杖をついた。
「最近ちゃんと学校来てくれるから、先生うれしいよ。もうすぐ卒業だしね。さみしいね」
「うれしいです」
「ひどい。小谷は俺と離れても平気なの」
「おつかれさまでした」
ぺこりと頭を下げてみせると、まだ終わってないよ!と吉田は芸人ばりのつっこみを見せる。
「小谷は今のバイト先にそのまま就職なんだよね?」
「……はい」
「よかったなぁ、安心だよ先生も。小谷、バイト先では楽しそうだし」
今更だめになりましたなんて言えず、私は曖昧に頷く。
「今度は卒業旅行に、北海道にでも連れて行ってもらうといいよ」
「……そうですね」
「うん。だから、それまで学校でも楽しく過ごそうね」
吉田がにっこりと笑う。
私もいつものように苦い笑みを浮かべる。
そういえば、いつだったか朝日を見に行きたいとも話したのに。
叶わないまま終わるのだなと、胸にちりりと痛みが走った。
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