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完全にさよならする前に、マスターに挨拶をしなければと思い出した。
あの人には随分世話になった。
なんだかんだ言って一番の相談相手だし、両親と会ったことも話しておきたい。

自分らしくない思考に自嘲しながら、私はバーのドアに手を掛けた。

「リョウちゃん」

珍しく驚いた顔をしたマスターが声を上げ、すぐにはっとしたようにボリュームを落とす。

「お食事、大丈夫ですか」

「もちろん、どうぞ」

この様子じゃ、すでに社長から話を聞いているのだろう。
少しほっとして、私はマスターに示された隅っこの席にこそこそと座る。
さっさと注文を済ませて、出されたウーロン茶を一口。
グラスを置くと、待ち構えていたようにマスターが口を開いた。

「昨日はどこ泊まったの?」

「いや、ふつうに祖父母の家に……」

「ああ、そっか。よかった、心配してた」

「すみません、挨拶もなく」

ぺこりと頭を下げると、マスターはいやいやと首を振る。

「マキが悪いんだよ。ごめんね、こっちこそ」

社長の名前が出て、私は苦く笑った。
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