9
その日は祖父母の家に泊まった。
ゆっくり話をして、おばあちゃんのごはんを食べて、早々と布団に入って、少しだけ泣いた。
人生はうまくいかない、そんなの当たり前だ。
欲しかったものは離れていってしまうし、いや、そもそも手に入れたことすらなかったかもしれない。
両親のようにはならないと言いながら、私はあの二人と同じようにお金に縛られている。
だけど、私は二人との決別を、この決断を、誇りに思うべきなのだ。
両親に初めて自分の意思を示せた。
初めて自分で両親を捨てた。
これで、自分の足で立っていられる。
これで、自分の意志で生きていける。
一番に社長に報告したかった、と思った。
あの人が私に伝えてくれたように、私もあの人を選びたかった。
捨てられたとしても、彼には感謝したい。
一晩たった今も腹が立つし、途方にくれているけれど、彼と一緒にいたおかげで私は今日の答えを出せた。
あの人が一人で、自立して生きたいという姿を見せてくれたから。
あんな形でさよならしたくなかったな、と思った。
もう一度会って、話がしたい。お礼が言いたい。
また泣きそうになって、目を閉じる。
キーボードを叩く音も、彼の好きな音楽も聴こえない。
今になってようやく、捨てられるのに慣れているなんて嘘だと、私は自分の強がりを認めざるをえなかった。
← | →